木邨直人さんがThe 44th Asian Conference on Remote Sensing (ACRS2023)にてSTUDENT AND YOUNG SCIENTIST PAPER AWARDを受賞
- 社会基盤学専攻
自律航行型船舶は、衛星測位、慣性航法計測装置、カメラ、LiDARなどを用いて、自己位置、姿勢、周辺環境などを推定し、速度や姿勢を制御します。自律航行船舶の研究では、外洋での航行や外洋環境での自動着桟・離岸に関する話題が多くあります。しかし、東京の都市河川では、橋梁や建物、首都高などの構造物が密集しているため、衛星測位環境に依存する従来型の自律型船舶は航行できません。そこで、私たちは、衛星測位環境に冗長な自律型船舶の開発を主眼として、LiDARを用いたSimultaneous Localization and Mapping(SLAM)による自己位置推定とPrecise Point Positioning RTK(PPP-RTK)による予備実験を行ってきました。
SLAMは、未知環境において自己位置の特定と環境地図作成を同時に行う処理であり、LiDARを利用するSLAMとしてLiDAR-SLAMがあります。LiDAR-SLAMでは、LiDARデータを入力データとし、取得したフレームの点群と参照するフレームの点群が重なるような回転・並進量を計算するスキャンマッチングのアルゴリズムにより、非衛星測位環境においても自己位置の特定を行うことができますが、絶対座標値の取得ができません。また退化現象により、SLAMで推定された軌跡が実際の航行と大きく乖離することが今までの課題でした。本研究では、非衛星測位区間における蓄積誤差の調整手法とPPP-RTKとLiDAR-SLAMを組み合わせた測位を提案しました。ボードの運動を制約条件としたポーズ調整により、SLAMの退化現象の影響を軽減できることを確認しました。また上空が確保できる区間ではPPP-RTK測位、上空の遮られる区間では多層レーザースキャナによる点群のSLAM処理といったように、主となる測位モードを切り替えることで都市河川の測位が可能であることを確認しました。
都市河川における船舶の位置情報は、水上交通インフラ整備のみならず、河川周辺構造物の維持管理の高度化に活用できる可能性があります。国内の社会インフラは高度経済成長期に建設されたものが多く、高齢化・老朽化している土木構造物の割合が急増していることが社会的課題です。また、災害が多いことも国内の特徴であり、緊急災害観測技術の重要性は増しています。本研究に加えて、衛星観測や航空・UAV測量、地上レーザースキャニング、ウェアラブルデバイス利用などの連携による、多様な測量技術を組み合わせた手法を提案することで、上記の社会的課題を解決することに貢献します。