私立大学における女性職員のキャリアとwell-being

2022/11/17
  • お知らせ

芝浦工業大学女性職員による座談会 2022.9


日本のジェンダー・ギャップ指数を押し下げる、女性管理職比率の低さは何が要因なのでしょうか。本学で管理職として働く女性職員4人からこれまでのキャリアを聞き、必要な制度や女性活躍のヒントを見つけます。

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社会の状況と芝浦工業大学の状況 を一人称で考える

キーノートスピーチ 男女共同参画推進室 吉川倫子室長

世界経済フォーラムが各国の男女格差を測る「ジェンダー・ギャップ指数2022」を公表し、日本は116位/146か国でした。教育分野では1位であるのに対し、政治参画・経済参画分野で順位を下げており、女性の役員や管理職比率が低いことが影響しています。 日本において男女共同参画が進んでいない問題の背景には、家族の姿が変化しているにもかかわらず、男女間の賃金格差や働き方等の慣行、人々の意識、さまざまな政策や制度等が、依然として「昭和」のままとなっていることが指摘されています。一人ひとりの生き方の変化・多様化に対応した制度設計や政策が求められています。
内閣府からこのように働き方の課題が提案されている中で、「女性が昇進を目指せる環境作り」、「男性の人生も多様化していることを念頭においた政策」の部分について、本学の状況を確認します。職員の女性管理職(監督職・専門職含む:以下同じ)比率は2027年には50%を目指していますが、現状大きくは増えていません。
女性比率(人数) 2019年度 2020年度 2021年度
職員 43.0%(80/186) 43.9%(79/180) 45.6%(82/180)
職員管理職 25.4%(18/71) 26.1%(18/69) 29.3%(22/75)
部長 20.0%(3/15) 20.0%(3/15) 22.2%(4/18)
教職員理事 14.3%(1/7) 14.3%(1/7) 14.3%(1/7)
教職員評議員 10.0%(2/20) 11.10%(2/18) 15.0%(3/20)
 職員管理職内訳(2022.9.1) 女性比率(人数)
GM:部長以上 28.6%(4/14)
SM:次長 33.3%(4/12)
M :課長・主幹 21.4%(6/28)
AM:課長補佐・主査 37.0%(10/27)
管理職全体 29.6%(24/81)

本学は女性活躍推進に対する行動計画として、M等級の女性比率を増やす、女性役員(理事)を一人以上にするなど具体的な目標を掲げています。
 また、次世代育成支援対策の行動計画では、男女問わずすべての教職員が仕事と生活を両立し、健康で生き生きと就業できる環境を整えることを目標にしています。

これまでのキャリアを振り返って、転機となった出来事は?
4人の女性管理職に聞く


畠山:転機になったことのひとつは出産です。私は新卒で本学に就職したのですが、当時は残業時間が多いほど頑張っているという風潮があったように思います。私自身も時間は無限にあると思っていたので、出産前はタイムマネジメントの意識が低かったですが、第一子を出産した後は育児に携わる時間を確保するため優先順位を意識するようになり、仕事の進め方を考えるようになりました。
一般職として学生課から経理課に異動したのですが、わからないことばかりで試行錯誤の日々を送りました。自分には適性がないと思い込んでいた経理課でしたが、細かなルールの必要性やその根拠を理解できるようになってからは面白いと感じるようになりました。業務システム改革室に異動後は、学生課や経理課での経験を活かせることが多く、これまでのキャリアは無駄ではなかったと実感することができました。経理課に戻った後に、課長職に昇進し、管理職として学びと反省の日々を送っています。一般職だった時の経験から「課長で課の雰囲気は変わる」と考え、課員への接し方や業務の割り振り方などを常日頃から気を付けています。


加藤:前職はかなりハードな環境で、20代前半のころは毎日がしんどくて仕事に前向きになれませんでした。でも27歳で初めてチームリーダーとなって目標を達成し、仕事に主体的に取り組む面白さに気づけたことが転機となりました。一方で、前職ではプライベート全てを犠牲にしなければ上級管理職にはなれない雰囲気で、ワーク・ライフ・バランスを大事にしたキャリアが描けない環境でもありました。
本学に転職してからは希望通りキャリアサポート課に配属され、学生の成長を感じられる業務に充実感を覚えていましたが、自分自身は成長できているのかと疑問に思うことがありました。そこで、カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)留学の人事研修に手を挙げ、UCIの各事務部門にヒアリングをする中で、大学事務の奥深さを知ったのが二つ目の転機です。
帰国後はキャリアサポート課に戻り、出産・育休を経て課長職に就任しました。育児のため、残業などに制約はありますが、吉川室長が以前「仕事は時間より質が大事」と話されていたことを励みに頑張っています。いまは、自分が頑張り過ぎなくても仕事が回る、課員それぞれが自身の成長を感じられるような「しくみづくり」を意識しています。
 
 
神谷:前職は男女雇用機会均等法制定前の就業で、女性は「職場の花」でいればいいといわれていました。仕事はコピーやファックス程度。その働き方が嫌で、芝浦工業大学へ転職しました。当時から本学は、すでに女性管理職もいるほどに、女性が活躍する職場でした。財務課で課長補佐となり、時間の管理が大切だと考えていました。しかし、財務課長時代は特に予算編成や決算時期には所定外勤務が続く毎日で、家族の理解なしではできませんでした。私の考える管理職のイメージは、人とコミュニケーションが良くとれる、気配りができる人でしたし、自分が管理職になるとは想像していませんでした。それでも管理職になると周りが必ず助けてくれましたので不安は少しずつ解消されていきました。
 
吉川:私は30歳までに3人の子を出産しましたが、当時育児休業制度はありませんでした。下の子二人は年子のため、産後休暇から復職すると次の産休に入るということがあり、顰蹙をかっていたと思います。末っ子がまだ保育園の時に課長補佐になりましたが、保育園の迎えのために所定外勤務は難しいことを上長にご相談したところ、「仕事は量より質」と言われて安心して昇進することができました。その言葉がとても有難く、私の心に残っており、加藤さんにもお話しました。また、先輩から「目配り気配り人配り」が大切ということも教えていただきました。人事課時代に行った女性職員懇談会で、女性講師から「夫に家事を手伝ってもらうのではなくシェア。役職を命じられた際の謙遜は失礼」と言われたのが記憶に残っています。人事課長時代に大学行政管理学会(JUAM)と出会い、大学行政管理の領域を理論的実践的に研究することを通じて、大学職員相互の啓発と研鑽が深まるとともに、他大学の職員との幅広いネットワークができました。このネットワークは現在も続いており、私にとって貴重な資産です。教学部門に異動してからは、教職学協働による大学改革に関わることができ、大学職員の楽しさを実感しました。「言うたらやれよ。やるなら面白くやれ」と教えられましたが、皆さんも大学職員の仕事を一人称で、楽しくやってほしいと思います。

管理職になる不安とは?

Q1_管理職を希望するか?
Q2_管理職を希望しない理由は?

オンライン座談会中に行った参加者へのアンケートで、管理職を希望している人の率は32%と想定より低い数値となりました。理由としては、「不安」48%が挙げられていますが、具体的に何を不安と思うのかなど座談会で掘り下げていきたいと思います。

畠山:私もこのアンケートでは「いいえ」と回答しました。自分にはその資質や力量がないと思っていたからです。管理職になってからも自分の判断や対応は間違っていなかったか不安に思うことが多々あります。漠然とした不安は誰もが抱えるものだと思います。

加藤:仕事の進め方は自分で決めたいと思っていたので、私自身は入職したときから課長職を目指そうと思っていました。実際課長になったいまはメンバーにも助けていただいてほぼ定時きっちりで帰宅しているので、余裕はないものの大変というほどではありません。 でも管理職昇進の話が来た際、理想の上司像をイメージすると「ああはなれない」って思いますよね。ただ、世の中いろんな管理職がいるので私はあまり上を見すぎないようにしようと思っていました。

 (オンライン参加者からも意見をいただきました)
参加者:管理職を希望しない68%というのは、謙虚な気持ちでいいのではないでしょうか。全員が出世したいというのも怖いというか。自分の成長だけでなく、メンバー全員の成長管理は、新しいことへの挑戦ですし、不安があるのは理解ができます。今の生活にプラスオンされることに対するシンプルな不安というか。

参加者:私は管理職になることを考えていませんでしたね。これまで女性上司のもとで働いていて、とても立派な方なので、同じことができるのか不安でした。不安だというのは、みんな根が真面目なだけだと思います。管理職になればなったで、周りが助けてくれます。それぞれの得意分野で引っ張っていける管理職になればよいのだと思います。
集合写真


男性が育休をとりやすくするにはどんな制度にすればいい?
パートナーはどうだった?

畠山:夫は育児休暇を取得しませんでした。出産した11年前は、男性が育休をとるイメージがなかったというのもあります。その代わり、私の職場復帰と同時に時短勤務をしてもらいました。私が時短勤務すると給与額の調整が入りましたが、夫の会社は調整がなかったためです。
 
加藤:私は里帰り出産ができなかったので、産後ケア施設に1週間お世話になり、退院後は夫が2週間育休をとって家事全般を担ってくれていました。
(制度について)私自身もそうでしたが、育休は仕事に穴を空けてメンバーに迷惑をかけてしまうと思う点が一番ネックになっていると思います。なので、育休取得者をフォローする周囲のメンバーに手当などがでると、育休が取得しやすい環境になるのではないでしょうか。
 
吉川:本学では、男性職員が育児休業を取得した場合、産後8週間の本給は全額支給されます(女性職員の産前産後休暇期間は本給全額支給)。この制度は以前からありましたが、男性の育児休業取得は数日単位が現状です。確かに加藤さんのおっしゃるように、育休をとる側のストレスを軽減する仕組みがあると良いですね。また、男性も女性もライフイベントと向き合いながらキャリアを構築させる柔軟な制度やキャリア相談の窓口があると良いと思います。ところで、内閣府男女共同参画局HPに「夫婦が本音で話せる魔法のシート」がありました。「○○家作戦会議 最近夫婦で会話していますか?・・このシートを使うとあら不思議、すんなり話ができて・・」とあり、興味深く思いましたのでご紹介いたします。


役員などの女性上級管理職を増やすには?
女性活躍に対して課題はある?

 
加藤:以前、男女共同参画推進室の初代室長から伺った話がとても印象に残っています。「一般的に男性は期待感で、女性は実績で昇進する。男性は、限られた人しか参加できない場でのコミュニケーションで『○○君は熱意があるから任せよう』と決まることがよくあるが、そうした場に参加できない女性は実績だけを見て判断される」というものです。そうした現状を踏まえると、例えば女性役員3割という数値目標を入れることでそうしたカルチャーも変わっていくのではないかと思います。
 
参加者:管理職の世界は、男性が作ってきた世界。今の管理職の姿は、「女性が目指したい姿」ではないということかと。当事者として女性自身がどんどん意見を上げて、女性管理職の世界を作り上げていく必要があるのではないかと思います。その環境が整うまでは女性3割を目指す必要があります。
 
吉川:組織に大きな変革を起こすことができるという「黄金の3割理論」がありますが、会議体ごとに3割を意識した構成とすることが望ましいと言えます。多数派の男性の中に女性が一人だけ入るとその女性は男性化し、今度は他の女性達から一線を引かれてしまうそうです。また、勤務外の付き合いで評価をしたり何らかの判断材料になったりすることは避けて欲しいですね。
 

学校法人芝浦工業大学でワーク・ライフ・バランスの支援制度は
10点満点でいくと、満足度は何点くらい?働く上でのニーズは?

畠山:自分は7点。法人全体は5点。部署や立場によって10点満点の方もいれば、仕事に偏ってしまっている人もいるのが現状なので、平均をとって5点としました。1時間単位で年休取得できるようになればより働きやすくなると思います。
 
加藤:自分は10点。パートナーが家事をシェアしてくれること、自宅と勤務地が近くいため通勤時間が短いことがポイントの高い理由です。法人の制度としては7点ですね。ライフイベントに合わせて、勤務地を柔軟に相談できると嬉しいです。
 
神谷:自分は9点。法人全体は6点。男性も含めて職員全てが支援制度に満足しているのか疑問です。男女ともに育休取得がしやすい環境整備が必要です。

吉川:一例ですが、産前休暇は基点となるのは出産予定日ですが、帝王切開などで日程が変わることもあります。このようなケースは、本人の意向を確認した上で柔軟に対応することもありだと思います。また、病気治療や不妊治療に対する休暇支援の制度化も必要と思います。当事者でないと気付かない点もあると思いますので、多くの意見を頂いて男性も女性も働きやすい環境を作っていけたらと思います。
 

最後に女性活躍のためのメッセージ


 
畠山:(学生の皆さんへ)出産や育児以外にも介護や大学院進学など人生における転機はたくさんあると思います。制度をより充実させていくのもあなたたちです。またそれをうまく活用し、キャリアアップしていってほしいと思います。どうせやるなら楽しくがいいですね!
 
加藤:いろいろな不安はあると思いますが、長期的スパンで考えると社会人人生の内、働き方に制約がある期間は実は短いと思います。なので、私もいまはやれる範囲で頑張って、大学でのキャリア全体を通じて本学に貢献できていればいいなと考えています。 いろいろと考えすぎると悩みは尽きないので、あまり考えずに迷ったときは困難と感じたな方を選んでほしいですね。ハードモードからイージーモードには簡単に変更できますから。当たって砕けろ精神でいくと、案外砕けないものですよ。
 
神谷:お二人から多くお話いただきましたが、職員の皆さんにはぜひ管理監督職を目指してほしいと思います。困難と出会った場合でも周囲に相談できます。躊躇せず、チャレンジしてください。また女子学生の皆さんには学生時代までは男女が対等であることが多いのですが社会に出ると男女差が目に見えてきます。若い力で改革をしていただきたいです。


一人ひとりの幸せと働きがいを目指して!



吉川:本研修開催通知時に、well-beingのアンケートをご案内しました。最近は、働き方改革より働きがい改革といわれる等well-beingを重視する考え方が広まっています。個人の幸福度は仕事との相関関係があるという考え方があり、調査の結果、その傾向が示されています。働くうえで、個人の生き方やwell-beingは無視できません。
 特に高齢化社会へと向かう日本では、社会の変化に応じてキャリアの概念を捉えなおし、雇用という視点だけでなく意味のある人生を送ることが求められています。生きていく限りキャリアは続いていきます。そして、女性だけの問題でなく、男性にとっても充実した職業生活を送る上で重要な課題です。ダイバーシティ・マネジメントの考えのもと、一人ひとりの幸せと働きがいを目指し、そして、それぞれの自立性、主体性が活かされる働き方を創っていけたらと思います。
 本日は長時間ありがとうございました。

休憩、カフェのマークのアイコン
研修後記~研修を終えて

研修後のアンケート結果は、管理職希望者が研修内での回答より19.6ポイント上昇しました。半数以上が不安を感じてはいるものの、ロールモデルの話を聞くことで、自分のキャリアや、ワーク・ライフ・バランスについて考えるきっかけになったとのコメントが多くあり、意識や行動の変化につながる機会となりました。
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