成果報告書

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レアメタルバイオリサーチセンター成果報告書
人類の豊かな生活は、少なからず金属の利用に依存している。ヒトの金属の利用は、紀元前5500年頃のペルシャにおける銅精錬に遡るとされる。その後、青銅器、鉄器の時代を経て、現代では、“金属”という概念も、銅、鉄といった典型的な金属元素のみならず、ヒ素やアンチモンのような半金属元素(メタロイド)や、金属に類似した特性を持つセレン、テルルのような非金属元素(ノンメタル)にまで拡大してきており(“金属類”と総称する)、これまでは耳慣れなかった周期表上の金属類がさまざまな分野で用いられるようになってきた。例えば、レアメタル/レアアースは産業のビタミンと呼ばれるように、特に半導体、超電導、宇宙工学等の先端産業において不可欠なものとなっており、我々の日常活動における金属類への依存性はますます大きなものとなっている。

本研究の基盤となる“メタルバイオテクノロジー”は、これまで進化・発展してきた人類と金属類との関わりにおいて、新たな技術を与えるものである。私的には、メタルバイオテクノロジーを、「微生物、植物等による多様な金属代謝や、生体材料による金属の結合など多様な生物作用を探求して駆使し、人類と金属類の関わりを広範にサポートする技術」と定義している。これまで、金属類の採鉱、製錬や加工、利用から処理・処分までのライフサイクルに関わる各工程において適用されてきた技術のほとんどは、物理・化学的プロセスによるものであったが、これを生物学(生物化学)的なプロセスに置き換えようとするものであり、既存技術において生じていた問題の解決や、全く新規な金属類の利活用技術の開発に寄与することが期待される。つまり、生物機能を用いたメタル回収技術開発を意図している。

従来の物理・化学的プロセスは、概して省資源・省エネルギー性や経済性が高いとはいえず、高温・高圧や強酸・強塩基等の激しい条件を用いることから環境適合型でもないという欠点がある。これに対して、生来このような欠点がない生物プロセスを用いるメタルバイオテクノロジーは、地球に優しいヒトと金属類との関わりを実現することができるという大きな魅力を持っている。特に、ターゲットとする金属類が低濃度・低含量で複雑な物質が混入しているような環境中や排水・廃棄物中での反応では、物理・化学的プロセスに比べて明確な利点を有しており、環境・資源関連分野での適用は有望であると考えられる。具体的には、金属類含有排水・廃棄物の処理・無害化、土壌等汚染環境の修復などの環境保全技術、および、排水・廃棄物や汚染環境中からの有価金属類の回収・リサイクル技術である。排水や廃棄物からの金属類の回収は、環境保全と資源回収・リサイクルの両立を可能とする。いわゆる一石二鳥の技術であり、極めて重要な課題である。メタルバイオテクノロジーにより、現状は物理・化学的プロセスで行われている金属類の製錬や加工を、環境に優しい生物プロセスで代替することができれば、持続産業の構築にも貢献することができる。

もうひとつのメタルバイオテクノロジーの魅力は、物理・化学的プロセスの研究・開発からでは、想像できないような新しい反応や材料を得ることのできる可能性を秘めているところにある。生物による金属類の代謝は意外にも多様であり、酸化・還元、水素化、アルキル化を含めた有機化などにより、金属類に多様な形態や特性を与える。日々新たな生物反応や酵素・遺伝子、微生物や植物が発見されて、さらに新しい金属類代謝反応の存在も明らかにされつつある。多岐に渡る生物反応を駆使すれば、既存の金属類の変換・加工や材料合成等の工業プロセスをこれまでにない斬新なものに考案できるかもしれない。

メタルバイオテクノロジーのさまざまな技術が開発・実用化されていくことで、今世紀の人類の最大の課題である環境劣化と資源枯渇という問題の一端が解決されることを大いに期待している。

芝浦工業大学SIT総合研究所 レアメタルバイオリサーチセンター長
芝浦工業大学工学部応用化学科・教授 山下光雄
(報告書 はしがき より)

●レアメタルバイオリサーチセンター成果報告書
「微生物機能を用いたレアメタル回収技術開発研究」
フレキシブル実装工学研究センター成果報告書
本学における80年にわたる、ものづくりを基軸とした教育の伝承をもとに、創立90周年に向けての新たな発展・革新にむけたSIT90作戦にもとづく全学的取り組みの下、「グローバルに活躍するものづくりイノベーション人材」を目指した教育研究に取り組んでいる。本研究課題は、高エネルギー陽子線描画という、独自の先端的なビーム技術をものづくりイノベーションにつなげるための研究拠点形成への取り組みである。従来の工学の枠組みにとらわれず、バイオ・ナノテク・材料といった境界領域へのアプローチにより、社会経済的価値の新たな創造に取り組む人材を輩出する。

テーマ1では、集束陽子線描画による三次元柔構造デバイスの創出、統合および超実装工学の推進をめざし、PBW技術を開発・駆使し、多機能三次元柔構造を利用した高機能フレキシブルデバイスを創出し、材料レベルで統合化する。我々は陽子線描画技術、Proton Beam Writing(PBW)を三次元柔構造を含むものづくりに適用することを提案する。本研究課題は、実装分野を支えるものづくりイノベーションをもたらす「超実装」工学の推進のため、集束陽子線描画による誘起反応性制御と三次元柔構造の実現に取り組む。

テーマ2では、三次元柔構造の機能発現とデバイス応用、および超実装工学の推進をめざす。光・電子・物理・化学反応など多様な形態を有する情報を入出力可能な機能を実現するべく、材料・デバイスの開発は、省エネルギー家電・機器や安全安心を守る各種のヘルスケア・センサーデバイスの実現において不可欠である。さらに、これらのヘルスケア・センサーデバイスの究極の形態の一つは、ウエアラブルあるいはインプランタブルなデバイスである。本テーマにおいては、独自の高エネルギーの集束陽子線描画技術(Proton Beam Writing, PBW)を三次元柔構造を含むものづくりに適用する。本研究の目的は、このPBW技術を駆使して多様な機能を有する三次元柔構造を作り出し、高機能フレキシブルデバイスを創出する。同時に多様な機能を材料レベルで統合化する、「超実装」実現への取り組みを推進し、概念実証モデルの構築とその実現を支援するPBWプロセスの研究を行う。

●フレキシブル実装工学研究センター成果報告書
「集束陽子線描画による三次元柔構造デバイスの創出、統合および超実装工学の推進 」
建築ストック研究センター成果報告書
本研究は、芝浦工業大学が所在する東京都江東区の地場産業、特に木材流通企業と連携して、区内の経年の進んだ共同住宅のインフィル(住宅の内装・設備)改修を行うための建築構法を開発するものである。日本全国には、6063万戸の住宅が存在し(平成25年度)、その約4割、2209万戸が共同住宅である。そのうち約600万戸がマンションであるが、経年が進んだ建物の比率が、年々高まっている。
一方、日本社会は、少子化、高齢化、小世帯化が進み、建設された当時とは、家族構成、ライフスタイルが大きく変化している。私たちが進むべき、持続可能な社会を実現するには、既存の共同住宅を短い周期で建替えるのではなく、住戸内部の仕上げ、設備で構成されるインフィルを、その時代のライフスタイルや居住者のニーズに即したものに定期的に更新し、快適な生活を実現するための技術が求められている。
本研究では、まず研究対象地域である江東区における、住居ニーズの実態把握を行い、高齢化や在宅介護などの社会ニーズに対応した改修技術の開発を目指す。改修工事の生産性の向上と経済性を実現するため、工業化住宅の内装システムで開発されてきた生産技術やサプラーチェーン(物流)などを応用して、製品開発を行う。そのため、研究プロジェクトの参加者には、民間企業にて長年にわたり、工業化住宅を開発してきた技術者や、UR都市再生機構の共同住宅の改修工事の設計経験を有する技術者を含めて実施している。
本研究は、既存住宅のストック改修という、我が国が抱える社会的課題と、地域の木材流通加工業の産業振興と言う経済的課題とを組み合わせて、複合的に解決することを、目指している。

主な研究成果としては、木材を使用した住宅用内装材として、国産の無垢木材を使用した遮音性の高い床材の開発を、共同研究者(遮音材メーカー、建設会社技術研究所)と継続して行い、実用に近い段階まで性能(=我が国のマンション管理組合の管理規約が規定する最高水準相当の遮音性能)を有する床材を開発した。
建設作業者、特に熟練工の不足が深刻化している状況を鑑み、居住者がセルフビルドにより共同住宅の内装インフィルを設置、改修できる構法を、実物大の試作品を製作し開発した。木造のインフィルについては、2014年度と、2015年度は軸組み構法を中心に、2016年度はパネル構法を中心に開発した。共同研究者である新木場の材木企業と、本研究終了後も引き続き改良作業を行う予定である。

●建築ストック研究センター成果報告書
「木材を使用した住宅用内装・設備の開発とその市場化による地域産業の振興」
パワーエレクトロニクス研究センター成果報告書
CO2排出に伴う地球温暖化の影響が顕著であり、日々高まる省エネルギー要求に応えるために、学内に分散する材料から応用までのパワーエレクトロニクス研究者が集合する垂直統合型の研究拠点を形成し、研究成果の社会還元と、研究者間の交流および設備共有による研究スピードの向上、ニーズからシーズまでを把握したT定規型学生の輩出らを目的とした、大学内外のパワーエレクトロニクスの研究、教育を一手に担う研究組織による広範囲なパワーエレクトロニクス技術研究を行った。

具体的には電気自動車(EV)の省エネ、創エネ、蓄エネを目的とした大電力ワイヤレス電力伝送を実現し、スイッチングデバイス、低損失配線材料、高周波大電力インバータ、高周波磁気回路設計、高効率モータ回生駆動、回生電力系統連系までの研究を行うことで、EVの電力ネットワーク化を実現し、個々の分野での学術的貢献およびパワーエレクトロニクスの新しい学術領域の創造を目的に研究を実施、また複合領域研究の必要性を明確にし、実社会にて即戦力となる学生を創出し、私大ならではのフレキシブルな体制による成果創出の規範モデルとなることを目的とした教育・研究を実施した。

●パワーエレクトロニクス研究センター成果報告書
「デバイスから電力系統まで考慮した“EV用MHz帯域”ワイヤレス電力伝送方式の研究」