学内のダイバーシティを進め脱炭素社会に向けた変革を加速したい

2023/05/22
  • 学び
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2023年2月、システム理工学部・環境システム学科の磐田朋子教授が副学長に就任。本学にとって初の女性副学長として、ご自身の専門分野に立脚しながら、どのような点に注力していきたいかについてお話を伺いました。

技術のスムーズな 「社会実装」 に工学系研究者として取り組む

まず私の研究分野について簡単にご紹介しますと、持続可能な社会をつくるにはどうしたらよいのか、エネルギーシステムの観点から考え、実践していくことです。化石燃料依存に疑問を感じ、持続可能な脱炭素エネルギー技術を学ぼうと資源工学を専門とする地球システム工学科に進学したのがそもそものきっかけでした。

脱炭素エネルギーには小水力発電やバイオマス発電などがありますが、どちらも古くからある技術のわりにあまり社会に浸透していません。それはなぜなのだろうか、という問題意識がありました。実は技術だけあってもダメで、ビジネスのあり方や人材確保、法制度や補助金などさまざまなことが障壁になっています。

例えば家畜の糞尿をメタン発酵させて取り出したガスで発電する技術は、欧米で普及しているのに日本での普及率は非常に低い状況です。その理由を突き詰めていくと、発酵後に残る廃棄物(残渣)に問題がありました。ヨーロッパでは残渣を畑の肥料に用いるサイクルができていますが、日本では畑作農家と畜産農家の連携不足などが原因でそのサイクルができていません。結局、残渣の処理に多くのエネルギー(電力)を消費してしまうので、せっかくガスを取り出して発電しても、ライフサイクル全体でみると、電力の削減につながらないのです。

このような事態を避け、システムを円滑に回す際に役立つのが、システム思考やデザイン思考です。ステークホルダー(利害関係者)が潜在的に何を求めているのか(ニーズ) 調査・分析し、問題の構造化を図ります。そしてシステムの全体構造を数式でシミュレーションすると、システムを社会で成功させる上でどこがボトルネックになっているのか可視化することができます。こうしたプロセスを、ステークホルダーの方々に見てもらい、課題を共有して次のステップに進みます。このように、段階的に問題点を探り、解決することで社会実装を促す研究を行っています。
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脱炭素化という切迫した社会ニーズに
工業大学として真摯に応えていく

日本政府は「2050年カーボンニュートラルの実現」を宣言していますし、近年、気候変動が世界各地に大きな災害をもたらすなど切迫感が増しています。持続可能なエネルギーシステムも含め、脱炭素化社会への時代の要請を強く感じています。

特に本学・大宮キャンパスは環境省の 「脱炭素先行地域」に選定されており、脱炭素で全国のモデル地域となる責任があります。
私も副学長として、本学が社会の重要課題である気候変動対策に先頭を切って対応していることを広くアピールする使命と、関連する学内のさまざまな動きを加速させる役割を担っているのだと考えています。

今、日本社会のいちばんの問題は「優れた技術はあるのに普及していない」ことではないかと思います。それは専門が細分化されて分業が進み過ぎ、相互のつながりが弱いからかもしれません。企業のプロジェクトでは、技術者もマーケッターも合意形成をするコーディネーターも協同して仕事を進めるのに、工学という学術分野ではそのような形にはなっていませんでした。

技術開発はもちろん大切ですが、社会に実装されて初めて世の中に貢献することができます。そこで本学も含め、理工系大学で問題解決型の授業が増えています。

私の所属するシステム理工学部では、医工、建築、機械、電子、環境、数理など専門の違う学生たちがチームを作り、社会や企業のリアルな課題を解決するグループワーク授業を行っています。一つの授業に各学科から2人程度の教員が参画し、学生への助言やサポートを行っています。

学生たちの反応もよく、 専門の異なる教員同士の交流の機会でもあり、 私自身そこから新しい研究の種が生まれたりもしています。
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▲パネル討論「脱炭素社会に向けたDXの期待」でモデレータを務める

社会実装や地域創発を促すために学内にもさらなる多様性を

脱炭素社会に向け、必要な技術を速やかに実装するには、持てる知識や資源を総動員しなければなりません。本学は幅広い専門領域を擁していますが、従来の工学に加え、例えば「行動変容」の理論など文系領域と考えられていた行動心理学や社会心理学の方法論も必要です。カリキュラム面でも2026年をめどにライフサイクル評価や社会心理学、経営学など、社会実装や地域創発を意識した授業を増やしていく予定です。

また、 自ら会社をつくって社会を変えていける人材を育成する拠点づくりも検討中です。本学はすでに大学発スタートアップを支援するイノベーションセンター「BOiCE」を立ちあげており、 「社会に貢献する人材」という建学の精神に則ってスタートアップを増やしたいという思いがあります。理工系大学の可能性もまた、既存の枠を超えて広がっていくでしょう。

そのためにも不可欠なのがダイバーシティ(多様性)です。多様な分野との連携やステークホルダーとの関わりに加え、 ジェンダーギャップの解消も必須の要件です。

社会を構成し技術を利用する人の半数は女性であり、女性目線のニーズ分析やエンジニアリングができる理工系人材が社会や企業から求められているのに、日本では工学に進む女子が諸外国と比較して少ないのが現状です。先輩工学女子の日常や進路、カリキュラムや授業の中身など「芝浦工業大学のリアル」の情報発信にさらに力を入れ、イメージをアップデートしていく必要があるのではないでしょうか。その意味で私の専門領域や“女性”という属性がプラスに働くのであれば嬉しいです。
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 芝浦工大×山田進太郎D&I財団 

好きなことをやろう!
STEM分野を目指す女子を応援します!
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メルカリ創業者で社長である山田進太郎氏が立ち上げた「山田進太郎D&I財団」の方々と
本学アドミッションセンター長の新井剛教授が、理工系女子の進学や今後の展望について熱く語ります。
YOUTUBE 【芝浦工大×山田進太郎D&I財団】好きなことをやろう!STEM分野を目指す女子を応援します!【SIT DIALOGUE vol.7】はこちら
(広報誌「芝浦」2023年春号掲載)