しばうら人 杉本 直樹(株式会社大林組)

2022/05/25
  • しばうら人

web用タイトル


安全・的確な施工管理で、新建築に挑む

高さ600m を超える東京スカイツリー® や東京2020大会競泳競技会場となった東京アクアティクスセンターなど、最新技術を駆使した大型建造物の施工管理を経て、現在は高輪ゲートウェイ駅前エリアの開発に携わる杉本直樹さん。「新しい建物に挑戦するのが楽しい」という杉本さんに、現在の取り組みと、建築という仕事の未来像について聞いた。

2205_shibaurajin01-min
杉本 直樹さん
株式会社大林組 
品川駅北開発
3街区工事事務所所長

1985 年3月 建築学科卒業

品川開発プロジェクトで 都市計画の一翼を担う

2020年3月に暫定開業したJR山手線高輪ゲートウェイ駅に降り立つと、目の前に品川開発プロジェクトの工事現場が広がる。1985年に建築学科を卒業した杉本直樹さんは、1街区から4街区まであるこの開発エリアの3街区工事事務所の所長として、3街区全体の施工管理を担当。発注者、設計者、官公庁職員、工事担当者、関係業者との打ち合わせや調整を繰り返しながら、地下5階、地上31階の高層ビルの建築に取り組んでいる。 

品川開発プロジェクトは、品川駅から田町駅までのJRの敷地と芝浦港南地区や高輪地区などの周辺地域をつなぎ、駅と街が一体となった都市空間を形成する大型都市再開発プロジェクトで、2024年度には文化施設と杉本さんが担当するビルを含む 4棟の高層ビルが完成する予定である。各街区の低層階は商業施設、高層階はオフィス、ホテル、マンションなどとなり、地域活性化、防災対策の拠点になるとともに、国際ビジネスの交流拠点の役割も果たす予定だ。

ねじれて上昇するタワーや 未知の高さの電波塔に挑戦

「子どもの頃から物を作るのが好きで、中学生くらいから建物を建てたいと考えていた」と言う杉本さんは、建築学科卒業後大林組に入社。日本のものづくりが元気な時代に、さまざまな大型建築物の施工に携わっていく。 

「新技術は過去の基礎研究の応用。これまでの技術の蓄積の上に新しい工法を足して、毎回、新しい建物を作っていくのが楽しい」という杉本さんだが、06年に担当した名古屋の「モード学園スパイラルタワーズ」の建築は勝手が違った。3棟のウイングがスパイラル状にねじれて上昇していく独特のデザインのため、斜めの鉄骨柱の上に斜めの鉄骨柱を積み重ねることとなり、鉄骨工事の精度管理が難しかった。「ねじれ」を生み出す工法に神経を使いながらも、施工時解析に沿った数値が確認できたことで、改めて施工のシミュレーションの正確さに驚き、「日本のエンジニアリングの力はすごいと感心した」と当時を振り返る。 

次に杉本さんが携わったのが「東京スカイツリー®」だ。垂直に積み上げていくのは他の高層ビルと同じだが、600メートルを超える塔の建設は「未知への挑戦」だった。施工計画や工法については本店技術部門と工事事務所が一体となって行なったが、それをきちんと実施工として細部まで検証し現実化させることも施工管理のエキスパートである杉本さんの役割だ。 

実際に現場に出てみると、地上との気温差、風の強さ、揚重( 資材・機材などを引き上げること)に費やす時間など、高さゆえの困難があった。杉本さんは、常に建物の最終形やディテールの確認、部材の納期などを意識しながら工事の進捗状況全体を把握し、安全面にも配慮して工事を進め、2 0 1 2 年に 高さ634m の電波塔が竣工した。

大学時代に培われた 「あきらめない」強さ

在学時の授業で心に残るのは、「即日設計だ」と言う杉本さん。週1回、朝に出された課題をその日のうちに仕上 げて提出することを繰り返すうちに、 あきらめずに粘り強く課題に取り組むことの重要性を学んだ。年に数回、数日の期間を与えられて大きな設計課題 に取り組むときも、アイデアが出ない、時間がないとあきらめずに、質の高いものを期日内に提出することを自分に課した。この「あきらめない」という精神は、現在の仕事で難しい課題を乗り越えるときに大いに役立っている。
2205shibaurajin_01-min
工事事務所でBIM モデル打ち合わせ(杉本さん中央)


大きく変わる建築の現場
ITの進歩による未来に期待

建築の現場は杉本さんの若い頃とは大きく変わっている。3K と言われた時代もあったが、働き方改革関連法により残業時間の上限が規定され、企 業のコンプライアンスの意識も高まって、長時間労働は是正されている。業務の機械化も進み、体への負荷も減っている。  

スマホやタブレットの普及など、I Tの進歩も仕事の効率化に貢献している。いま、杉本さんが注目しているの が、コンピュータ上に3次元の建物のデジタルモデルを作成できる「BIM」 だ。3次元モデルにはデザイン、構造、設備、コスト、仕上げなどの情報が含まれるので、映像を見ながらさまざまなシミュレーションが可能になる。  

もうひとつ、杉本さんが建築の未来像として期待しているのが「自動化」だ。「建築の原則は、人が作る場所に行き、そこに物を持って行って組み立 てることだが、運ぶプロセスの自動化が進めば、現場はずいぶん変わるだろう」と期待する。タワークレーンを遠 隔操作する技術も進んでおり、今後 は座標軸を理解しているBIM搭載ロ ボットが資材をエレベーターも駆使して運ぶことも当たり前になるかもしれない。汎用化が進むロボット技術など が応用される建築の未来をイメージしつつ、杉本さんは「より良い現場管理」 を目指してチャンレンジを続けていく。


2205shibaurajin_02-731-min
高輪ゲートウェイ駅前で品川開発プロジェクトの全体像を説明する杉本さん
(広報誌「芝浦」2022年春号掲載)