しばうら人 澤田 澪さん(株式会社シード デバイス技術部)

2023/05/22
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海外での研究経験を重ね、 眼の健康に貢献する

コンタクトレンズなど、『眼』に関するさまざまな商品を提供するメーカー「株式会社シード」で、新しい眼科装置の企画開発やスマートコンタクトレンズの開発を行っている澤田澪さん。看護師の母を見て育ち、物心ついた頃より医療の仕事に携 わることを目標としていた澤田さんの、これまでの軌跡から現在の仕事、今後のキャリアパスについて聞いた。
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澤田 澪さん
株式会社シード デバイス技術部
2015年3月 システム理工学部生命科学科卒業
2017年3月 システム理工学専攻修了

社内ベンチャー的存在の部署で世界最先端の電子工学と眼科医療を結びつける

株式会社シードは、創立65周年を迎えた『眼』の専門総合メーカーだ。主力のコンタクトレンズ事業をメインに眼に関する多くの事業を展開している。

澤田さんが所属するデバイス技術部は、電子工学を活用し、眼科装置の企画開発や同社子会社が開発した、眼圧の変化から誘発される角膜曲率の動きを測定し、眼圧変動におけるピークパターンを検出する医療機器である、スマートコンタクトレンズ「トリガーフィッシュ®システム」に続く第2のスマートコンタクトレンズの開発を行っている。いわば、社内ベンチャー的な存在だ。また、外部技術導入も行っており、澤田さんは「トリガーフィッシュ®システム」を開発したシードの子会社であるスイスのSensimed SA社との技術交換を担当し、定期的にスイスを訪問している。学生時代、英語が大の苦手だったが、充実した社内研修が英語のスキルアップを強力にサポート。自己研鑽の結果、現在は英語での定期ミーティングをこなす日々だ。「まさか英語が苦手な私が海外で研究する機会に恵まれるとは思ってもいませんでした」と振り返る。
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スイスにて、Sensimed SA 社とシードとのミーティング(澤田さん左奥)

看護師の母に影響され医療への貢献を志し、研究と課外活動に打ち込む

澤田さんの母は長年看護師として勤めている。そのため、物心がついた頃から何らかのかたちで医療に関わりたいという夢があった。しかし、血を見ることがどうしても苦手だったため、看護師は早々に諦めることに。
高校生の時に、芝浦工業大学のオープンキャンパスで「新しく医療工学を学べる学科ができる」と知り、生命科学科に進学を決めた。

芝浦工業大学では、学業と課外活動の両方に打ち込み、修士はシステム理工学専攻に進学。研究室では 「ビタミンKの蛍光特性評価実験システムの開発」というテーマで、血液中のビタミンK測定のための測定機器の開発を行った。先行研究がない分野だったので、澤田さんが第一人者。レイアウトアーキテクチャの構築など、ゼロからの作業となった。

課外活動は全国大学生協学生委員会に学部・修士を通じて 6年間所属。 新入生向けのオリエンテーションなど、各種イベントの企画・運営を行っていた。忙しい時期は学業の合間を縫って、毎日のように活動するという活発な学生生活を送った。

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ラマン分光装置と澤田さん

眼科のアルバイトをきっかけに株式会社シードへ入社
慶應義塾大学で臨床研究も手掛ける

学部4年生の頃、眼科施設でのアルバイトを経験。壁一面にコンタクトレンズがずらっと整列する様子に圧倒された。メーカーを見ていると、 「海外だけでなく、国内のメーカーもたくさん商品を出し、努力しているのだ」と感じた。さらに、眼科にある各種医療機器が目に留まり、眼に関わるメーカーに興味を持ったことがきっかけで、同社への就職を志望した。

就職活動の際は株式会社シードよりも規模の大きい会社もあり、入社に悩んだこともあった。しかし、就職活動を進めていくうちに、「大きすぎない組織の方が機動的であり、活躍するチャンスも多いのではないか」と感じた。工場見学の際も雰囲気がよく、社員の人柄に惹かれたことが決め手となり、株式会社シードに入社。
「海外での研究を含め、活躍する機会が多い分責任も重く、大変な部分もあるが、私自身としてはこの選択をして良かったと思っている」と話す。

現在は目にレーザーを照射して、発生したラマン散乱光から物質の種類や状態を調べる装置である「ラマン分光装置」の設計に関わる業務と、スマートコンタクトレンズ開発に関わる業務の2つを担当している。ラマン分光装置に関しては慶應義塾大学での臨床研究も進んでおり、澤田さんは同大学の研究員でもある。

今までで最も思い出深いのは、特定臨床研究の審査に是認された瞬間だ。株式会社シードはコンタクトレンズに関しては専門知識や経験が豊富だが、眼科の医療機器についてはノウハウが多くなく、何度も差し戻しになり、その度に緻密な再調整を重ねた。約1年半をかけて、日本の厳しい審査に通った瞬間は忘れられないほど嬉しかったという。


当時必要性が分からなかった学びが、 今いきている
技術面だけではなく人間として成長していきたい

澤田さんは、学生時代に芝浦工業大学での学びに疑問を持ったことがあった。生命科学科の生命医工学コースで「ひとつの医療機器をつくれるように」と、CADの使い方からプログラムの書き方、電気回路の知識、レギュレーションの基礎、統計学などかなり幅広く基礎を学んだが、当時はその必要性がよく分からなかった。

しかし、実際に新規医療機器を立ち上げる立場になった今、すべての知識が役立っていると感じている。基礎の知識があるだけで 一 歩踏み出すハードルが大幅に下がる。仕事の機会が回ってきた際に、「やります」と手を挙げることができるのは大きい。それを踏まえて、今大学で学んでいる学生たちには「苦手なことから逃げるのではなく、前向きに取り組む姿勢を養うと、きっと強みになる。進路選択の際も、ネガティブな要素を避けるために選ぶのではなく、好きなことを追求する選び方をしてほしい」と話す。

澤田さんは今年、入社7年目。 「もう若手ではない」と苦笑した。「海外経験を積み、技術面だけではなく人格面でも成長が必要だと感じた。これからは人間としての成長にも力を入れていきたい」と語る。

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澤田さんが開発に携わった 「シード2weekPureうるおいプラス乱視用」
(広報誌「芝浦」2023年春号掲載)