新方式ライダーの開発に成功
2021/10/25
- 研究
- プレスリリース
連続光の相関を制御、高速振動の分布検出が可能に
横浜国立大学の理工学部4年生清住空樹君と水野洋輔准教授は、東京工業大学の中村健太郎教授、芝浦工業大学の李ひよん助教らとの共同研究で、光相関制御型の新方式ライダーを開発し、100 kHzの高速振動を検出することに成功しました。測距と高速振動検出を同時に行うことは従来の方式では困難でしたが、本方式では連続光の干渉の性質を巧みに制御することで実現可能となりました。このライダーにより空気の流れを可視化できる可能性があり、部屋の換気効率の測定やマスク周辺の乱流等の検出を通じ、感染症対策への貢献が期待されます。
本研究成果は、2021年10月21日(現地時間)に国際科学雑誌「APL Photonics」のオンライン版に掲載されました。なお、本研究は、科学研究費補助金(課題番号20J22160、 20K22417、 21H04555)の支援を受けたものです。
【プレスリリース】新方式ライダーの開発に成功.pdf
本研究のポイント
- 従来の光測定では、長距離の測距と振動分布の検出を同時に行うことは困難であった。
- 本研究では、連続光の相関制御により測定を行う「相関領域ライダー」を開発し、測距と高速振動の検出を同時に行うことに成功した
- 将来的には、流速分布測定への応用を通じ、感染症対策への貢献が期待される。
研究背景・成果
振動検出技術は、自動車部品などの特性解析や構造物の異常検知など、様々な分野で需要が高まっています。一般に、振動検出技術として光測定が使われますが、その中でもドップラーシフトを利用することで測定を行うレーザードップラー振動計用語1が主流です。しかし、この手法では測距が想定されていないため、測定レンジが短い、高速な測定位置の切り替えが難しい、などの問題点を抱えていました。そこで、長距離の測距と振動検出能力を備えたセンサーの実現が望まれています。このような背景の下、本研究では、光干渉の性質(光の相関)を巧みに制御することで、長距離の測距と振動検出を同時に行うことのできる「相関領域ライダー」を開発しました。そして、その性能実証として、100 kHzの超高速振動測定に成功しました。
提案手法の原理
ライダー用語2で測定を行うには、測定対象にレーザー光を照射してその反射光を分析する必要があります。相関領域ライダーでは、その反射光を参照光と干渉させます。このとき、レーザー光に周波数変調用語3を施すことで、反射光と参照光が強く干渉する点「相関ピーク」が形成されます。相関ピークは測定点として機能し、相関ピークと重なった点からは詳細な情報を取得することができます。例えば、相関ピークと重なった測定対象が振動している場合は、その周波数や振動波形を測定することが可能です。相関ピークの位置は、レーザー光の変調パラメータによって自在に制御することができます。よって、複数の測定対象が広範囲に分布している場合でも、相関ピーク位置を掃引することで測定をすることが可能です。
実験1:測距の実証
相関領域ライダーによる測距を実証するため、レーザー光の空間出射口からの同一直線上の12 cm、 25 cm、 41 cmの地点にビームスプリッタおよびミラーを設置し、0 cmから48 cmの区間で反射率の分布を測定しました。正しい位置での反射が強くなっており、測距能力が示されました。実験2:振動検出の実証
相関領域ライダーでの振動検出が可能であることを実証するために、30 kHzで振動する振動発生装置の波形と周波数を測定しました。反射光パワーの時間変化から波形を測定し、その波形に対して周波数解析を行い、振動周波数の特定を行いました。正しい周波数(30 kHz)にピークが現れたため、振動検出能力も示されました。なお、論文中では100 kHzでの実証も行いました。原理的にはさらに高い周波数も測定可能です。今後の展開
相関領域ライダーの応用展開として、流速分布測定が期待されます。空気中に存在する粒子の振動や動きをとらえることにより、空気の流れを可視化することができると考えられます。これにより、部屋の換気効率や、マスクの周りの乱流等を測定することができるようになり、感染症対策にも貢献できる可能性があります。また、生体信号の非接触センシング(脈拍、呼吸、心臓の微細振動・鼓動など)に応用できる可能性もあります。用語の説明
1)レーザードップラー振動計測定対象が振動している場合、ある特定の周波数の光を入射させると、物体の振動によりドップラーシフトを受け、反射光の周波数が変化します。この変化を測定することにより振動測定を行う装置を「レーザードップラー振動計」といいます。
2)ライダー (LiDAR: Light Detection And Ranging:光検出と測距)
測定対象に光を照射しその反射光を解析して、測定対象までの距離を測定する技術。近年、自動運転の支援技術として注目を集めていますが、それ以前から地質学での地形把握や気象学での大気リモートセンシングなど、幅広い分野で活用されています。
3)周波数変調
レーザー光の周波数を変化させること。本実験では、レーザーの駆動電流を直接変調することで実現しています。
発表雑誌
雑誌名:APL Photonics、 2021年 10月21日 オンライン版DOI:10.1063/5.0062303
論文題目:Pilot demonstration of correlation-domain LiDAR for high-speed vibration detection
(高速振動検出のための相関領域ライダーの実証)
論文著者:Takaki Kiyozumi、 Tomoya Miyamae、 Kohei Noda、 Heeyoung Lee、 Kentaro Nakamura、 Yosuke Mizuno
(清住 空樹、宮前 知弥、野田 康平、李 ひよん、中村 健太郎、水野 洋輔)
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