しばうら人 梶原 遥さん(ミズノ株式会社)

2022/03/14
  • しばうら人

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ランニングシューズで世界トップシェアを目指す


芝浦工業大学陸上競技部に駅伝ブロックを立ち上げ、箱根駅伝予選会に出場。ランニングシューズを愛する梶原さんが卒業後に入社したのは、陸上競技者に愛されるシューズを製造するミズノ株式会社。念願のレーシングシューズ開発担当として目指すのは世界トップシェアだ。

梶原 遥さん

ミズノ株式会社
グローバルフットウエアプロダクト本部
デザイン・開発部技術開発課
Expert先行開発担当

2016年3月 材料工学科卒業

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相手を思いやるシューズづくり


「シューズづくりは“愛”です」。仕事へのこだわりを聞くと、力強い言葉が返ってきた。総合スポーツ用品メーカーのミズノで、陸上競技者が競技で利用するレーシングシューズを開発する梶原さん。陸上競技、シューズ、そして選手全てに対する愛情にあふれている。

損得抜きで相手を思いやること、その愛が開発者として重要なことなのだと言う。実際に競技がスタートしたら、選手はみな1人。監督もチームメイトも応援はできるが、最後まで走り続けるのは自分自身しかいない。そんなとき、シューズに絶対の安心を感じてもらいたい。走り続けるために足元だけではなく、心を支えられるものづくりがしたい。それが、仕事の根底にある。

陸上で磨いた前向き思考


芝浦工業大学は、決してスポーツに秀でた学生の集まる大学ではない。そのなかで、陸上競技部に駅伝ブロックを立ち上げるため、SNSを通じて部員を集め、在学中の4年間連続で箱根駅伝予選会に出場するという偉業を成し遂げた。予選会は出場するだけでも、10,000m34分以内の選手を10人エントリーする必要があり、素人が考えるほど簡単なことではない。そんな梶原さんが陸上競技を始めたのは、中学1年生のとき。それまでは足が遅く、運動会のかけっこがとても憂鬱だった。苦手克服のために入部したのが、陸上部だった。

普段から笑顔の絶えない梶原さんだが、大学で立ち上げたばかりの駅伝チームは練習する環境も置かれている状況も決して恵まれているわけではなく、苦労も多かった。陸上競技部の主将になったときは、自分が辛いときでも部全体のことを考えて行動する必要もあったが、そのことで自分以外のことも考えられるように視野が広がったそう。不満を感じるよりは、工夫すれば多くのことができると、隠れている可能性に目がいくようなマインドが育まれた。とことん前向き思考だ。

シューズ開発という仕事


2018年発売の「WAVE EKIDEN12」は、新入社員として関わった製品。当時陸上長距離シューズ市場の中で最軽量の130g台を達成した思い出深いモデルで、コストや仕様が制限されたなか、最大限の工夫ができた。2019年発売の「WAVE DUEL GTZ」には、レーシングシューズの開発担当者として企画の始めから関わった製品で、新しく高反発ソールを利用し、シューズづくりの夢が詰まっている。

陸上選手がレースで使うようなシューズの開発が現在の仕事のため、実際に現場へ向かい、アスリートにヒアリングしたり、大会視察で他社動向を調査したりする。それをもとに、自分で試作品を作成することもあり、計測、評価も行う。もちろん技術面でも、自社工場、材料メーカー、機械メーカーを訪問し、最新情報を得る。こうした仕事の結果として、新しく考えたシューズの構造やアイデアで特許出願までこなす。箱根駅伝予選会に出場した後輩達の応援は、市場調査の一環でもある。大学で学んだ材料工学の知識も活かせて、天職ではないかと周囲は簡単に考えてしまう。

しかし、初めから仕事が全て順調だったわけではない。先行開発品の試作のために、3ヶ月に1回のペースで海外工場へ行き、直接技術者と構造や製法について議論したり、最新技術情報を得たりするのだが、初めて行った海外出張では、自分の語学力のなさに打ち合わせでほとんど自分の考えが伝わらなかったそう。その失敗から、週6日の英会話に通い始めた。結局は、中国語の使用頻度が高くなり、中国語の資格取得に挑戦しているというから、柔軟性が高い。もちろん、シューズの作り方が分かれば基本的なコミュニケーションはとれると、シューズの知識吸収も欠かさない。
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WAVE EKIDEN12 モデル
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WAVE DUEL GTZ モデル
 

ワクワクの伝播


梶原さんは自らも、出場標準記録2時間35分という福岡国際マラソン出場を目指して、現在も練習に励んでいる。競技自体が大好きで、自身も選手であることが、選手を思いやるシューズ作りに繋がっているのだ。選手が持つ走りへのこだわりに負けないほど、シューズ作りにこだわりたい。一般人には到底分からない、細かいこだわりを積み重ねてやっとたどり着く「走り心地がいい」シューズを作りたいと言う。また、さまざまなシューズを履き比べ、小指の付け根が接地する瞬間のファーストフィーリングで自分のシューズは決めているのだという顔は、作り手としても、選手としても完全なるシューズマニアだ。

「皆さんが驚くようなシューズがどんどん出てきますよ」。海外ブランドに奪われた陸上シューズのシェア奪還を目指すという、梶原さんのワクワクした気持ちが周囲にまで伝染してくるようだ。身近な人からシューズを履く選手まで、ワクワクするようなモノやコトを周囲に発信していけるような開発者でありたい。梶原さんのシューズ開発者として道はまだ、スタートラインに立ったばかりだ。

abm00017520開発したWAVE DUEL GTZを手に

広報誌「芝浦」2020年冬号掲載