しばうら人 依田 和久さん(鹿島建設株式会社)

2020/11/25
  • しばうら人
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より良いコンクリート建造物をつくる

「低炭素と高品質を両立した高炉スラグコンクリートおよび地盤改良体の開発と展開」をテーマに鹿島建設株式会社の依田さんを含む共同研究チームが、2019年日本建築学会賞(技術)を受賞、翌年には令和2年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞した。芝浦工業大学大学院修士課程を修了して30年以上、鹿島建設株式会社でコンクリート研究を続けてきた依田さんの研究への取り組み方を聞いた。
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依田 和久さん
鹿島建設株式会社 技術研究所
建築生産グループ グループ長(上席研究員)
工学博士

1987 年3 月 建設工学専攻修了

30年以上続く研究の楽しみ

今回各賞を受賞した「高炉スラグコンクリート」は、材料製造から運搬、施工まで含めた建築物建設時に発生するCO2 を大幅に削減できるとして、環境配慮が評価された。高炉スラグは、鉄鋼の製造工程で発生する副産物だ。コンクリートの主原料であるセメントの一部と置き換えることができ、セメント製造時に発生するCO2 が抑制できる。高炉スラグを含むコンクリート自体は100 年以上前からあるのだが、コンクリートを打った後の養生期間が長いことと、硬化過程の温度ひび割れなどが課題となり、使用用途が土木構造物や地盤改良体などに限られていた。この課題を解決することにより、従来の用途に限らず、建築物の鋼管充填柱や上部・下部躯体全てに使用できるコンクリートを開発したことが、建物全体のCO2 排出削減に大きく寄与できることになった要因だ。この研究プロジェクトは、2014年から8つのゼネコン・セメント会社・大学が共同で研究を進めてきたものをベースとしている。研究は、予想通りの結果が出ず苦労することも多いが、「より良いコンクリート構造物を作りたいという、同じ目的を持った研究者・技術者と話し合い、作り込んでいく過程が楽しい」のだという。

いまに続く恩師の教えと研究テーマとの出会い

 コンクリート研究との出会いは、学部4年の卒業研究だ。意匠・構造・設備・材料の研究分野がある中、コンクリート材料の研究をしていた十代田知三教授の研究室を選んだ。当時は、「建築材料への興味よりも、十代田教授の人柄で選んだ」のだという。その言葉の通り、十代田教授から丁寧に指導してもらう中で、専門知識のみならず、物事の見方や社会性を学んだ。考え方を押し付けることなく、質問を受けたときは丁寧に時間をかけて対応する姿勢は、いま後輩研究者たちを指導するときに自分が心がけていることに通じている。卒業研究で始めた「再生骨材コンクリート」の研究は面白く、疑問や課題をひとつずつこなすうちに修士課程を修了し、研究員を募集していた鹿島建設株式会社に入社。当時の上司に何を研究したいのか聞かれ、「いろいろなコンクリートの研究がしたい」と伝えてから33 年、業界トレンドに合わせて少しずつ研究テーマを変えながら、コンクリート一筋に研究を続けてきた。
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▲ 2019 年シンガポールにて現地のセメント・化学混和剤メーカの技術者との意見交換会

開発したコンクリートのファンを増やす

企業の研究員として働いて感じるのは、学生時代と違い、研究の目的がとても明確なことだという。入社後まずは、先輩の手がけていた高強度コンクリートの強度を高める実験などを手伝った。入社した1987年は、バブル景気を背景に高いタワーマンションの建設に需要があり、巨大な建造物を支える強度が求められていたからだ。時代の変化と共に、建設現場の人手不足や働き方改革を背景とした生産性向上が研究トレンドとなり、コンクリートを打ち込む際に締め固め作業を必要としないコンクリートを開発したこともある。建築基準法への適合や経済性など、実際の建設現場で利用できるようにするには、さまざまな条件へ具体的に合わせる必要がある。依田さんは専門用語を噛み砕いて説明し、話すことに慣れている。仕事の内容を詳しく聞くと、それも納得するだろう。研究だけでなく、技術開発を行い、出来上がった技術を現場技術者に使ってもらえるよう、国内外の支店や現地法人へ技術説明に巡るからだ。「開発した技術のファンを増やさなければ、どんな技術も使ってもらえない」という言葉が印象的だった。コンクリートは、セメントや骨材などの調合というレシピを決めるところまでが依田さんの材料開発の主な仕事で、生コン工場に指示した生コンクリートを作ってもらい、現場でコンクリートを打って出来上がる。打込み方法の指導も大切な仕事である。生コン工場が作る生コンは完成した物ではないので、半製品と呼ばれるそうだ。現場の技術者がいかに技術の中身を理解し、適切に使うかが技術の特長を生かす最大のポイントといえる。そのため、扱いやすい技術開発を心がけ、使いたいと思ってもらえるように説明し、ファンを増やすことが大切なのだ。


技術の伝承

現在も鹿島技術研究所で研究員を務める依田さんの今後の目標は、技術の伝承だ。「世代が違えば、考え方も全く違う。同じ方向を向いていなければ、考えを押し付けられてもうまく伝わらないと思う。手取り足取り指導することが無い代わりに、質問があるときは時間をかけて丁寧に対応している」という。恩師や先輩研究者から受けた教えを、今度は自分が後輩研究者へ伝えていく。今後も、SDGs やグローバル化、デジタルトランスフォーメーションなどといった社会のトレンドに合わせたコンクリート研究に、終わりはなさそうだ。
14_しばうら人1▲2014 年再生骨材コンクリート講演のため工学院大学阿部名誉教授とソウルへ(依田さん左側)

(広報誌「芝浦」2020年秋号掲載)

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