橋田規子教授 心地よさ、使いやすさをデザインする。

2016/10/13
TOTO 株式会社で20年間、水まわりの製品、空間をデザイン。その実績をもとに、エモーショナルデザイン(感性工学)に取り組み、人が心地よく感じるデザインを研究。


橋田規子教授
橋田規子教授 (デザイン工学部デザイン工学科)

女性ならではの視点で水まわりをデザイン。

私は、大学でインダストリアルデザインを学んだ後、現在のTOTO株式会社、東陶機器株式会社に入社しました。もともとはグラフィックデザインに憧れていたのですが、大学で立体のデザインに出逢い、三次元の表現の幅広い可能性、工業製品として人々の生活に役立ち、世間から評価を得られることに魅力を感じ、インダストリアルデザイナーの道を選びました。当時は、ちょうど男女雇用機会均等法が施行された頃で、男女の隔たりなく仕事ができる環境を逸早く整えた会社で仕事できたことは、デザイナーにとってとても幸せなことでした。ご存じの通りTOTOは、トイレ、バスルーム、キッチンなどの水まわりに関する製品を幅広く扱っています。生活用品の開発は、やはり毎日コンスタントに扱う女性の視点が欠かせないと思います。掃除機を例にとると、男性は機能とか吸引力などのスペックを考えてしまいがちです。しかし、毎日使う女性の立場からすると、軽さや動きまわりやすさ、収まりのよさに目がいきます。毎日使い続けるために必要なことというのは、女性ならではの視点が重要になってくるわけです。TOTOでは、さまざまなプロジェクトに関わらせてもらい、デザインすることが楽しくて気がついたら20年経っていました。その間、さまざまな製品でグッドデザイン賞をいただくことができました。

デザイン性だけでなく心地よさを追求するエモーショナルデザイン。

現在、私はデザイン工学科において、エモーショナルデザイン研究室を開設しています。感性デザイン学に基づき、「美しいもの、心地よいものには理由がある。それを工学的に解明する」をテーマに、形状が人の感性に与える影響について研究を進めているところです。研究においては、人間が感じる「心地よさ」をどのようにデザインに落とし込み、製品の魅力を高めることができるかを考えています。人は良くも悪くも、多少の不便さや心地悪さがあっても、すぐに慣れてしまいます。そこで私は、人が気づいていないが、感じている繊細な使い心地を見出して、より新しい心地よさを盛り込んだ提案をしたいと思っています。たとえば、背もたれをつけた、身体にフィットする浴室用の椅子の開発では、物理的、精神的両面から快適感を把握しデザインに盛り込みました。また、産学連携の取り組みとして、高齢者と幼児で遊ぶことのできる、双方の機能訓練に有効な玩具の研究も行っています。これは、核家族化、少子化により地域でのつながりが希薄になり、子どもが社会性を育む場が失われる一方、高齢者が社会的な役割りを担う機会が減少し、孤立化、生きがいの喪失が進んでいることに対する取り組みとして、埼玉県のコミュニティーハウス・ババラボとのコラボレーションで進行中の事案です。会話を交わしながらマグネットパーツによる地図を作っていくという玩具で、脳の活性化が促進されたというデータがとれたので、製品化を図っているところです。
RettoHighChair&SquarePailRetto High Chair & Square Pail /岩谷マテリアル株式会社 入浴好きな日本人のために、美しい風呂椅子が必要だと考えた。身体的かつ視覚的な心地よさについて様々な実験を行い研究した。
開けやすい食用瓶開けやすい食用瓶 / 柏洋硝子株式会社 女性や高齢者など力の弱い方でも開けやすく、魅力的な瓶の形状を追求した。TV東京WBS「トレたま」で紹介された。
MappingPuzzleMapping Puzzle / ババラボ 高齢者と幼児で遊ぶことのできる、双方の機能訓練に有効な玩具の研究。

自然をお手本に、音や触覚など人間の感覚に踏み込んだデザインを。

今後は、光や音、触覚など複合の感覚をどういう組み合わせだと、どのように感じるのか、そうした、まさにエモーショナルな研究を行っていきたいと考えています。すでに多くのモノが溢れている現代では、バーチャルな体験で満足してしまう若者も増えてきています。もう一度自然に還って、自然素材というものを認識することや、風にそよぐ草の音、家がきしむ音など自然体験から感じることを再認識したうえでの、デザイン提案が重要ではないでしょうか。匂いとか風、温度などその場に行かなければわからない、さまざまな感覚を刺激するような生活空間であったり、生活の端々で自然を感じられるような製品づくりなどが、これからの未来に求められてくるのだと思っています。

プロトタイププロトタイプ 座面を本の様にめくり、色柄を変えて楽しむと同時に、体に合った座面高さを手軽に調整できるユニバーサルデザインチェア・クッションの差し替えは背もたれバーを取り外して簡単にできる。
CurrentCurrent / TOTO 株式会社 水の流れによって海底にできる水紋をモチーフにした浴槽。使用者が水との一体感を感じられるようにデザインした。
橋田規子教授
東京芸術大学美術学部デザイン科インダストリアルデザイン専攻卒業。
1988 年東陶機器株式会社(現TOTO株式会社)入社、商品研究所生活研究課にて生活トレンド研究、商品企画提案。1991年より同社デザインセンター第一デザイン課にてネオレストのデザインを手がける。
以降、便器、水栓金具、洗面器などのデザインに携わる。グッドデザイン賞受賞。2000 年より同社デザイ ンセンター第二デザインG にて洗面化粧台、浴室、浴槽、キッチンのデザインに携わる。後、グループリーダー、デザインディレクター職に。
2008年、TOTO株式会社退社。芝浦工業大学システム工学部機械制御システム学科教授に就任。2009年、同学デザイン工学部デザイン工学科教授に就任。
2009年度グッドデザイン賞審査委員、日本デザイン学会、日本感性工学会会員。以降、特許庁意匠制度小委員会委員、日本デザイン学会理事等を歴任。

お問い合わせ


芝浦工業大学 男女共同参画推進室

〒337-8570 埼玉県さいたま市見沼区深作307(大宮キャンパス)

E-mail:desk_gequality@ow.shibaura-it.ac.jp