越阪部 奈緒美 教授 「おいしいって、からだにいい」ということの証明を目指す。

2016/10/18

チョコレートやりんご、紅茶などの食品に含まれるポリフェノールが、身体に働きかけるメカニズムを解明し、その効果を予防医学に生かすための研究に取り組む。


越阪部奈緒美教授
越阪部 奈緒美 教授 (システム理工学部生命科学科)

チョコレートのいいところを 探すことから始まった研究。

学生時代は、自分から望んでというのではなく父の薦めで薬学を学んでいました。当時は、研究者としてずっとやっていくなど、想像もしていなかったというのが正直なところです。卒業後、食品メーカーの医薬品部門で研究開発の仕事に就きました。医薬品部門で厳しい指導のもと仕事を進めるうちに、研究の面白さを理解することに。その後、特定保健食品が制度化されたときに、食品部門でチョコレートの研究開発に取り組むことになりました。当時、チョコレートは、太る、虫歯になるなどの悪いイメージが強かったのですが、チョコレートのいいところを見つけだすという命題が課されたわけです。タンパク質や糖質、食物繊維、ミネラルなど多くの切り口を考えてみたものの、薬学出身の私にはピンとくるものがなくて、まったく違った切り口から着目したのがポリフェノールでした。世界的に見てもチョコレートに含まれるポリフェノールに着目した研究はなかったため、研究成果をチョコレート・ココア国際シンポジウムで発表すると、日本中にココアブームが巻き起こりました。その後、美と健康を考えた高カカオポリフェノールチョコレートという製品が生み出されたのです。自由な研究環境と、マーケティングや営業同行、国内外の共同研究先とのやりとりなど、さまざまな場所・人とのつながりが研究を助けてくれたと感じています。

効果が実在するのにそのメカニズムがわからないポリフェノール。

現在、私の研究室では食品に含まれる成分、特にポリフェノールに着目し、これらの物質が恒常性を維持しアンチエイジングに寄与することや、メタボリックシンドロームやロコモーティブシンドローム、認知症、うつといった疾患の予防・改善することをさまざまな手法で解明しているところです。そもそもポリフェノールにはさまざまな効果があるということはずいぶん前からわかっていたのですが、なぜ効果があるのか、そのメカニズムが謎だったのです。研究室では2013年に、マウスの実験により、ポリフェノールがエネルギー代謝を促進する“ミトコンドリア”の新生を促すことを解明し、メタボリックシンドロームのリスク因子の改善にポリフェノールが関わるメカニズムを実証することに成功しました。このほかにも、産学連携の共同研究も盛んに行われています。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラムへの参画では、紅茶やりんご、紫の野菜ジュースなどを取り扱う食品メーカーの方々との共同研究で評価実験に取り組んでいるところです。ポリフェノールに限らず食品に含まれる成分には、人の健康に有効なものがたくさんあります。最終的な研究目標としては、おいしいって、からだにいいということを科学的に証明し、機能性食品や創薬への応用に貢献したいと考えています。
恒常性の維持が期待される食品群恒常性の維持が期待される食品群

実証のための地道な研究を行う学生

研究室には、学部生、院生合わせて14名在室していますが、半数は女子学生です。研究はコツコツと地道な努力が必要とされますが、仮説に対して実証結果がぴったりと合ったときには、「世の中でこんなに興奮することはない」と思えるほど感激できます。なかなか結果が出ない停滞した状態でつらいこともあるでしょうが、学生にはPDCAサイクル(plan-do-check-act cycle)を回し続けることが大切だと声をかけています。ここで研究姿勢を身につけた多くの学生は、食品会社での研究職の仕事に就いています。今年の卒業生は全員一部上場企業の研究職に就くことができました。これから学ぶ方々には、情報過多の時代に、情報をうのみにしないで自分で検証することの大切さを理解してほしいと考えています。検証するプロセスを体験することで、自分自身も大きく成長できると思います。
実証のための地道な研究を行う学生実証のための地道な研究を行う学生

越阪部 奈緒美 教授
星薬科大学薬学部衛生薬学科卒業後、食品メーカーに入社し開発に従事。
2009年4月、芝浦工業大学に入職。専門分野は機能性食品学。
主な担当科目は食品衛生学、生命科学実験。日本農芸化学会・日本栄養食糧学会・日本フードファクター学会などに所属。産学連携事業にも取り組む。

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