しばうら人 吉川勉さん(Zaha Hadid Architects Lead Architect)

2022/03/14
  • しばうら人

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ザハ・ハディドのイズムを継承し、世界で戦う建築家



大学卒業後、活躍の場を世界に求め、アメリカの大学院に行きロンドンのザハ・ハディド設計事務所で勤務している吉川勉さん。大学に入学したときから海外に目を向けていた吉川さんは、その後ダイバーシ ティな環境に身を置き仕事をする中で何に気づき、本気で取り組んできた結果何を得てきたのでしょうか。

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2006年建築工学科卒業
Zaha Hadid Architects Lead Architect(ロンドン)

世界に出るための準備


建築工学科に入学後、なんとなく過ごしてきた2年間が経ったころに言われた「このままだと卒業できない単位数ですね」という学生課からの宣告。そこで目が覚め、残り2年で卒業するための計画を立て、学業に本気で取り組み始めた吉川さん。また、その同時期にラスベガスに旅行に行った際に、建築が学べるロサンゼルスの大学を見学して回った。もともと将来はさまざまな国の人と仕事がしたいという志向があったが、「ここならばやりたいことが思いっきりできるかもしれない」と、このときに留学の意志を固めた。計画通り、4年で卒業した吉川さんは、まずはインターンで国内の建築事務所へ。そこでは各国から集まってきた人たちがおり、彼らと話をしているうちに、国によって受けてきた建築教育がずいぶんと違うことに気づき、そういう人たちと戦っていくためには、やはり海外に出て実力を磨かなければならないことを痛感した。

実力があれば差別されない


国内の事務所での勤務を経て、ロサンゼルスのSouthern CaliforniaInstitute of Architecture の大学院に入学。そこで待っていた洗礼は、日本でやってきた手描きの設計や模型は一切排除された、パソコン上での設計を求められたことだった。手描きのものを見せれば「手描きできるのは分かったが、今度手描きで持ってきたらお前の鉛筆を全部捨てるぞ」とまで。自ら望んで飛び込んだ環境ではあったが、初年度の前期は生活、食事、人間関係、言葉、文化なども含め慣れないことばかりだった。しかし少しずつ慣れてきた後期からは、ためた力を一気に爆発させる。アルバイトなどを両立していたのをやめ、全てを学校の課題に注ぎ込むようにした。カリキュラムに沿って2日に1度寝るという生活をし、合間には新しい技術やプログラムの習得にも努めた。その結果学年でトップとなり、学内の優秀作品にも選ばれて日本の雑誌に取り上げられたり教授から仕事のオファーをもらうようになった。「あいつは他と違う」「あいつはいつ寝てるんだ」という評判が立った。このときに得た一番の収穫は「実力で勝負すれば差別されない」ということだ。「日本人、アジア人への差別は確かにあります。しかし個の実力を強くすれば、国籍などは関係なくなってくる。個性が違って当たり前であり、合わせることにさほど意味を持たないということを、この大学院での経験が教えてくれました」。大学院を経て、2010年の夏に世界ということを、この大学院での経験が教えてくれました」。

刺激的な環境のザハ・ハディド事務所


 大学院を経て、2010年の夏に世界的に有名な建築家ザハ・ハディド氏の設計事務所に採用され、カイロのオフィスのマスタープラン、中国の商業施設、ドバイのホテル、東京、ロシアのオフィスのほか、最近ではロシアのフィルハーモニー交響楽団のホールを手がけた。現在では事務所でも古株となり、チームをまとめていく立場になった。コミュニケーションを密にして、スタッフを鼓舞し、ときに挑発しながらその力を引き出し、全てを出し尽くすべく一丸となって戦っている。その結果今年はコンペで3戦2勝の成績を残したという。「やはり勝つとうれしいですし、さまざまな背景を持ったチームを動かす側になると彼らが覚醒していく瞬間を見守るのは日本では味わえない迫力があります。また私自身も事務所のブランドをザハ本人に受けた最後の世代とされていて、いろんな物件にそのイズムを吹き込むように求められます。それが吹き込む瞬間は未だに動揺します。自分で設計したのだけど自分ではないような、とてつもない空間を生んでしまったと武者震いが止まらない時があります」とザハ事務所での仕事の醍醐味を語る。

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芝浦で学んだ「本気になって結果を出すこと」 


芝浦工業大学で計画を立てて本気で学業に取り組んだ後半の2年間。ロサンゼルスで学年トップになる計画を練り一心不乱に取り組んだこと。ロンドンの事務所でコンペの募集要項を読んでチームを勝利に導くこと。これらはすべて同じ行為であり、学習する喜びと結果が実ったときの快感は芝浦工業大学から学んだという。「海外に行くこと自体は難しいことではありません。日本だろうが海外だろうが、その時々で何かを掲げ、そこに全力でぶつかっていけば自ずと結果はついてきます」という吉川さんは現在、個人でも住宅、指輪やプロダクトのデザインなど、活躍の場を広げている。そしてこれからも自分の「本気」を世界で試し、結果を出し続け、自分にしかできない仕事を世界中で行っていく。

グローバルな職場で


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世界中からさまざまなバックグラウンドを持つ建築家が集まるザハ事務所。国籍関係なく実力が求められる世界で、何年目というのも関係なく、初日から特有のデザインが求められ、経験が付いてくれば特有のデザインを現実的な形にする方向に持っていく役割を担う。

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Zaha Hadid ザハ・ハディド
1977 AA スクール卒 ディプロマ賞 受賞
1979 ザハ・ハディド設計事務所設立
2004 プリツカー賞 受賞
2009 高松宮殿下記念世界文化賞
2010 RIBA スターリング賞
2011 RIBA スターリング賞
2012 大英帝国勲章 デイムコマンダー
2016 RIBA ゴールドメダル賞