芝浦工大がマルチカラー発光色素の簡易合成法を開発 ~環境に応答して青から赤まで発光色が可逆的に変化~

2026/04/21
  • プレスリリース

芝浦工業大学(東京都江東区/学長 山田純)工学部・堀顕子教授(分子集合学研究室)らの研究チームは、兵庫県立大学と共同で、発光性有機分子をフッ素化亜鉛錯体で連結することにより、溶媒、機械刺激、静水圧といった外部環境に応答して、発光色が青色から赤色まで広範囲かつ可逆的に変化する材料を開発しました。

一般的な有機色素は青色や緑色で発光するものが多く、紫外光照射により橙色や赤色、近赤外などの長波長領域で発光する材料の合成には、多段階の有機合成と精製工程が必要とされています。今回、研究チームは青色に発光する小分子有機色素を亜鉛錯体で架橋することで、溶液中では青色発光体として振る舞い、固体状態では緑色から赤色まで外部環境に応答して可逆的に発光色が変化することを見出しました(図1)。この手法は一段階で定量的に反応が進行するため簡便性が高く、今後、さまざまな発光色素への応用が期待されます。


※本研究成果は英国王立化学会誌「Inorganic Chemistry Frontiers」のオンライン版に掲載されています。

ポイント
・小分子発光色素をワンステップでマルチカラー発光体へ変換
・フッ素化亜鉛錯体による架橋により、発光色を連続的に制御
・擦る・押すといった刺激により、緑色から赤色まで広範囲な発光色変化を実証

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図1. ダンベル状亜鉛錯体の発光挙動。フッ素化亜鉛錯体で架橋することで溶液中では青色、固体状態では緑色、高圧下では赤色に発光する。それぞれ、左が溶液での発光、右上が擦ったときの粉末の発光色、右下が圧力をかけたときの単結晶の発光色。

研究の背景

外部刺激に応答して発光色が変化する刺激応答性材料は、分子集合状態や結晶構造と光物性との関係を理解する上で重要な研究対象です。とくに、機械刺激や圧力に応答して発光色が変化する材料は数多く報告されていますが、赤色などの長波長発光を安定かつ可逆的に実現する例は限られていました。
一般に、有機発光分子は青色や緑色で発光するものが多く、赤色発光を得るためには、π共役系の拡張や電子状態の精密な制御を伴う多段階の有機合成と精製工程が必要とされます。このため、合成の簡便性と発光色制御を両立させることは大きな課題でした。

研究の概要 

本研究では、青色に発光する有機色素を、芳香族フッ素を導入した亜鉛錯体で架橋するという分子設計により、発光色を大きく変化させる新しい手法を提案しました。
この反応は一段階で定量的に進行し、複雑な分子修飾を行うことなく、青色発光分子を基盤とした材料を得ることができます。溶液中では青色発光を示す一方、結晶化することで分子間相互作用が強まり、擦るなどの機械刺激や静水圧の印加に応答して、発光色が緑色から赤色まで連続的に変化することが明らかになりました。さらに、刺激を取り除くことで元の発光状態へと戻る可逆的な挙動も確認されました。
本研究の特長は、発光色の長波長化を分子骨格の改変によって達成するのではなく、錯体架橋と結晶構造制御によって実現した点にあります。亜鉛は一般に無毒で、電子状態としては発光に直接寄与しない金属ですが、本研究では結晶構造の柔軟性と分子集合状態を制御する要素として機能し、赤色発光を含む広範囲な色変化を引き出しています。本研究成果は、Inorganic Chemistry Frontiers誌の表紙にも採用されています。

  

今後の展望

本研究は、擦る・押すといった力や周囲の分子環境の変化に応じて発光色が変化することから、これまで目に見えなかった変化を光として可視化できる点が特徴です。この性質を活かすことで、物質の状態変化や外部からの刺激を簡便に捉える材料への展開が期待されます。
将来的には、圧力やひずみが加わったことを色で知らせる発光材料や、分子が結合したり離れたりする様子を色の変化として捉える材料へと応用できる可能性があります。高価な測定装置を用いなくても、「色を見るだけで周囲の状態が分かる」発光材料は、環境問題への取り組みや材料評価の分野においても重要な役割を果たすと考えられます。
また、本研究で示した、発光分子を錯体で連結するという設計概念は、複雑な合成を行わずに発光色の幅を大きく広げられる点でも特徴的です。今後、このような設計手法を発展させることで、環境や状態の変化を光で伝える新しい発光材料の基盤技術につながることが期待されます。

 

研究助成

 

本研究は芝浦工業大学が支援するS-SPIREプログラムによる助成を受けて実施されました。また、兵庫県立大学の研究支援およびJSPS科研費(基盤研究(C)22K05147)の支援を受けています。

  

論文情報

著者 :
芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士課程              竹内 優太
芝浦工業大学工学部 学士課程                     山田 稔
兵庫県立大学大学院理学研究科 修士課程                土谷 到
兵庫県立大学大学院理学研究科 准教授                小澤 芳樹
兵庫県立大学大学院理学研究科 教授                 阿部 正明
芝浦工業大学大学院理工学研究科 教授                 堀 顕子

論文名: Multicolor and reversible stimuli-responsive luminescence of dumbbell-shaped Zn(II) complexes with extended triphenylamine-attached ethynylpyridine terminals
掲載誌: Inorganic Chemistry Frontiers
DOI: 10.1039/D5QI02451J
 

芝浦工業大学とは
工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科
https://www.shibaura-it.ac.jp/
理工系大学として日本屈指の学生海外派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の大学です。東京都(豊洲)と埼玉県(大宮)に2つのキャンパス、4学部1研究科を有し、約10,000人の学生と約300人の専任教員が所属。2024年には工学部が学科制から課程制に移行。2025年にデザイン工学部、2026年にはシステム理工学部で教育体制を再編し、新しい理工学教育のあり方を追求していきます。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。