しばうら人 増田 孝弘さん(鹿島建設株式会社)

2024/08/23
  • しばうら人
  • 卒業生
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安全、環境、品質、工期、コストに配慮し、建築現場を束ねるプロジェクトリーダー

スーパーゼネコンの建築現場の所長として、長年にわたり鉄道関連施設や再開発、テーマパーク工事などを手がけてきた増田孝弘氏。「芝浦工業大学に入学して建築の面白さを知った」という増田氏が、仕事のやりがいやリーダーとして心がけていることを語る。

増田 孝弘さん

増田 孝弘さん

鹿島建設株式会社

校友会鹿芝会支部 支部長

工学部 建築工学科( 現建築学部 建築学科)

1988年卒業

大学の授業で建築に魅せられて

高校時代、ものづくりが好きで工業系大学への進学を目指していましたが、特に建築に思い入れがあるわけではありませんでした。しかし、芝浦工大に入学後は建築の面白さに魅せられ、一気にのめり込んだことを覚えています。図面や模型製作で手を動かすのも楽しかったですし、構造設計を学んだ時は「世の中とは合理的に成り立っているんだ!」と感動しました。3年次にアメリカ横断の旅に出て、各地の建築物を見て回ったこともいい思い出です。当時は原広司さんや磯崎新さんなど著名な建築家が活躍されていた時代で、彼らの作品を同級生と見に行き、感想を語り合うのも楽しみのひとつでした。

意匠系の研究室に在籍し、一時は設計事務所への就職を目指しましたが、そのためには大学院に進学する必要がありました。しかし、遠方から学費や生活費を援助してくれていた親にこれ以上の負担はかけられず、就職を決意。折よく鹿島建設の新卒募集があり、スーパーゼネコンがどのような事業を行っているのかよく分からないまま採用され、入社となりましたが、「神様が “ ここへ行きなさい " と言ってくれているのだ」という運命を感じました。

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所長として2000人・数百億円の現場を束ねる

ゼネコン入社直後の新人の前に最初に立ちはだかるのが「職人の壁」です。若くて未熟な社員が、自分よりはるかに年上の熟練の職人さんと共同作業で現場を回していかなくてはなりません。どうにかこの壁を乗り越えると、仕事の面白さを感じるようになります。工事現場のミッションは「決められた期日までに、受注した金額で、要求された品質をいかに環境にやさしく安全に作り上げるか」。目的が非常に明確で、成果も日々目にすることができます。ですから私たちはその目的に向かって頑張るのみです。

この業界では「普通に仕事をこなせるようになるのに10年、一人前になるのに20年かかる」といわれています。私は47歳で所長になり、現在6か所目の現場を担当しています。鉄道関連施設、議員宿舎、再開発ビル、テーマパークなど、経験してきた建築物はさまざまですが、人の命を預かる大変さに変わりはありません。他にも納期に間に合わせなければならない工期のプレッシャーがありますし、資材費や人件費の高騰などによる金額面での調整、今後ますます深刻になるであろう人手不足の問題もあります。

さらに建築物は一点ものであり、現場ごとに意匠も手法もクライアントの要望も異なります。現場では所長は一国一城の主のようなもの。副所長、課長、各担当者など直属の部下だけで2030人はいますし、下請け会社さんのスタッフを合わせると1000~2000人規模になることもあります。これほどの人数を束ねて、工期と予算を守りながら数億~数百億円の建築物を完成させなければなりません。

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成果がかたちになっていくこんなに面白い仕事はない

プロジェクトリーダーとして心がけているのは、「ブレない」こと。そして「動じない」こと。一貫性がなければメンバーはついてきませんし、リーダーが動揺を見せるとメンバーにも伝染してしまいます。人にはいろいろなタイプが存在します。誉めて伸びる人もいれば、叱咤激励して伸びる人もいます。仕事の原動力となる感情は人により異なるため、リーダーはいち早く個々の特性を見抜き、相手に応じて使い分けなければなりません。とはいえ、私も最初からできていたわけではなく、まだリーダーとして自信がない頃は、現場に誰も来ない夢を見て、朝目覚めることがよくありました。これを克服するには、現場で経験を積み、徐々に学んでいくしかありません。とにかく5年は岩にしがみつく思いで頑張ること。すると必ず道は開けますし、本当に困った時には必ずどこかから助けの手が差し伸べられるものです。私も所長になって5年が経った頃には、「こんなに面白い仕事はないぞ」と思うようになりました。工事が進むにつれ、建築物のかたちができていく、成果が目に見えて分かる。クライアントを通じて普通なら会えないような人に会え、お話を聞くことができる。そして完成後はまた新しい現場が待っている。これを数年ごとに繰り返すことができるのです。

今振り返ってみても、大学時代の学びはすべてに役立っていると思います。初めて知ることばかりで授業が興味深かったですし、先生方も今から思えば錚々たる顔ぶれでした。今学生時代に戻れるとすれば、先生方のお話を一からじっくり聞いてみたいです。当時の私は理解できていませんでしたが、とても大切なことをお話いただいていたはずです。大学の4年間の勉強はとても重要です。私も4年間を真面目に頑張って勉強に励み、今の自分があると考えています。社会に出ると「もっと勉強しておけばよかった」という声をよく聞きますが、今からでも遅くありません。「勉強しておけばよかった」と後悔しないためにも今が大切だと私は思います。

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(広報誌「芝浦」2024年夏号掲載)