しばうら人 後藤 花奈子さん(株式会社資生堂)

2024/05/25
  • しばうら人
  • 卒業生
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色々なプラスチックが複雑に組み合わさっている
化粧品パッケージのリサイクルを目指して

「ものづくりが好き」ではあるが、具体的に何を作りたいのかは分かっていなかったという後藤花奈子氏。そんな彼女が芝浦工業大学で学んだのは、ものづくりに対するアプローチの仕方そのものだった。それは大学卒業後も、大手印刷会社から資生堂というキャリアを歩むうえで大きな指針になっている。

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後藤 花奈子さん

株式会社資生堂

システム理工学部

機械制御システム学科

2013年卒業

 

専門は、イノベーションを起こすお手伝い

もともと私はものづくりが好きで、大学を受験する際も「何かを作りたい」という気持ちが軸になっていました。ただ、その「何か」は具体的には定まっておらず、そんな中で選択したのが芝浦工業大学システム理工学部の機械制御システム学科でした。というのも、同学科ではロボット工学からシステム解析、デザイン工学まで幅広い領域をカバーしており、ここでなら自分のやりたいことが見つかるかもしれないと思ったからです。

芝浦工大に入学してからの私は勉学に励むだけでなく、バレーボール部と美術工芸部を兼部するなど興味が向いたものには片っ端から手をつけ、没頭する毎日を送っていたのですが、その中で少しずつ自分の専門と呼べる領域が見えてきました。それは、簡単にいえばイノベーションを起こすお手伝いをすることです。


例えば4年次に入った最適システムデザイン研究室では、さまざまな特許情報をデータベース化し、そこからイノベーションに関わる要素を抽出、分析することで開発支援を行うシステムを作る研究をしていました。私は、イノベーションとは誰か頭の良い人の、常人にはない発想によって起こされるものだと思っていたんです。もちろんそういう側面もあるにせよ、それだけではなくデータからアプローチしたり、システム的にサポートしたりできればもっと可能性が広がるんじゃないか。そういうことを想像しながらする作業はとても楽しかったです。

就職活動をしている際も、やはりものづくりに携わりたいと考えていたので、大手印刷会社を受けました。なぜ印刷会社を選んだのかといえば、同社も幅広い領域でものづくりをしていて、なおかつ会社の方針として感性を大事にしていたからです。要は、ものを作るうえでシステマティックであることも大事ですが、ある種そこから外れるような、不確定ともいえる要素を大事にしている。そこに、ときめいたんです。

パッケージの設計から、
戦略立案へ

大手印刷会社には2013年から6年ほど勤め、その間は主にパッケージの開発に従事していました。例えば洗剤の詰め替えパッケージであれば、落とした時に破れないか、封を切りにくくないか、中身を注ぎにくくないかなど、使用性を含めて不具合のないものを設計するという仕事です。何度もテストを繰り返した果てに、実際に商品として市場に出ているのを見るたびに達成感を覚えましたし、やりがいもありましたが、設計という部門の特性上、お客さんの顔が見えづらいところがありました。

そこで、よりエンドユーザーに近い、お客さんの意見をキャッチできるような会社で働きたいという欲求が芽生え、株式会社資生堂に転職しました。資生堂は化粧品会社ということもあってにこだわりがあり、それが印刷会社における感性と同様に、私にとってのときめきポイントになりました。

2019年に資生堂に入社して今年で5年目になりますが、最初の1年はサステナブルなパッケージの技術探索や開発を行う部署にいました。その後、産休を挟んで、復帰してからはより幅広くさまざまな製品パッケージの設計に携わり、2023年から現在の部署に所属しています。

同部署はパッケージの設計をするというよりは戦略を立てる部署で、実務としては、サステナブルなパッケージを設計するための情報収集や、新しいリサイクルシステムの調査などを行っています。現状の化粧品のパッケージは、中身の保護や使用性の担保のため、多種多様なプラスチックを使用することがあり、その場合リサイクルが容易ではないといった課題があり、それを解決するための技術探索や実証実験を行うのがメインの業務になります。



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資生堂グローバルイノベーションセンター S/PARK
(@shiseidospark)公式インスタグラムより引用

ものづくりにはさまざまな視点や立場がある

それまでの私は主に設計と開発に携わっていたせいか、市場の視点というものが欠けていました。そこに難しさを感じているのも事実ですが、どうしたら消費者の皆さんがリサイクルを特別なものとしてではなく、当たり前のものとして受け入れてくれるのか、そういったことを考えるのは新しい体験であり、大きなやりがいになっています。

一口に「ものづくり」と言っても、そこにはさまざまな視点や立場がある。そこに気づけたのは、芝浦工業大学で学んだ経験があったからかもしれません。前身である東京高等工商学校を含めれば100年近い伝統があり、昔ながらのしっかりした基盤を持ちつつ、新しい取り組みにも積極的な大学だったと、卒業してから分かりました。逆にいえば在学中はそのような実感はあまりなかったのですが、例えばプロジェクトマネジメント実習やグローバル交流といった先端的なプログラムは今の仕事にも役立っています。

また「工業大学」という一見固そうな名前が付いていますが、中に入ってみるとユニークな教授や学生がたくさんいました。彼ら、彼女らとの交流もやはり刺激的で、かつての私のような自分のやりたいことを見つけたい人はもちろん、すでにやりたいことがある人、あるいはシンプルに好奇心旺盛な人の背中を押してくれる環境だったといえます。

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仕事中の後藤さん


(広報誌「芝浦」2024年春号掲載)