SIT Academic Column コンクリートで カーボンニュートラルを実現する

2024/02/23
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日本が2050年までの実現を宣言している「カーボンニュートラル」。これはCO2をはじめとする温室効果ガスの排出量から、吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにすることを目指すというものだ。そのために注力すべき分野のひとつがコンクリートであり、工学部・土木工学科の伊代田岳史教授は「カーボンリサイクル」と、耐久性のあるコンクリートという二つの側面から研究を行っている。

いかに長持ちするコンクリートを作れるかが重要になってくる

ビル、橋、トンネル、ダムなど、我々の身の回りにはコンクリートが溢れている。そのコンクリートの主な原料となるのがセメントだが、国内のセメント産業では年間で約4000万トン(2019年)のCO2が排出されており、これは日本のCO2排出の約4%に相当する。セメントは石灰石と粘土および工業副産物を原料に、また化石燃料と廃プラスチックなどの廃棄物などを燃料に高温で焼成し、急速冷却してから石こうを加え粉砕して製造される。原料の石灰石を化石燃料で燃やす際に原料・燃料の両者からCO2が排出されてしまうのだ。

伊代田教授は、このようにセメント製造時に大量に排出するCO2を減らす、さらに、コンクリートの製造時・使用中にCO2を削減し、吸収量を増加させるべく、両側面から研究を進めている。

「コンクリートで構造物を作る過程でCO2が排出されるのだから、その構造物が老朽化し、新たに作り直す必要が生じれば、当然またCO2が排出されます。であれば、一度作った構造物はできるだけ長く使い続けること、換言すればいかに長持ちするコンクリートを作れるかが重要になってくる。そもそも、コンクリートは長持ちします。その証拠に、ローマのコロッセオは2000年以上ものあいだ、円形闘技場の構造を保っています(※コロッセオはセメントと火山灰を主成分とした“ローマン・コンクリート”でできている)。ただし鉄筋コンクリートの場合は、内部の鉄筋が錆びると構造物が脆くなり、例えば長崎県の軍艦島の鉄筋コンクリート群はかなり劣化が進んでいます」


コンクリートにはCO2を吸収するポテンシャルがある

コンクリートの性能は、環境にも左右される。海水に晒されれば塩害(塩分がコンクリート内部に浸透することで鋼材が腐食し、発錆による体積膨張によってコンクリートに剥離やひび割れが生じる現象)が起こり、寒冷地では凍害(コンクリートに含まれる水分が凍結と融解を繰り返すことで、コンクリート自体が徐々に劣化する現象)が起こる。また、コンクリート中のアルカリと、骨材(コンクリートを作る際、セメントや水と混ぜ合わせる砂利、砂)に含まれるシリカ鉱物との化学反応によって、コンクリートに異常膨張やひび割れを発生させるアルカリシリカ反応が起こることもある。

さまざまな劣化現象のメカニズムをひとつずつ解明し、劣化に対抗しうる材料を研究し、構造物を長持ちさせる施工方法を開発する。それが伊代田研究室で日々行われていることであり、前述したようにいくつかのフェーズに分け、それぞれのフェーズごとに学生たちと一緒に実験をしながら問題解決に取り組んでいる。

「例えば材料のフェーズでは、CO2の排出量を減らすにはコンクリート製造に用いるセメントの量を減らせばよいのですが、減らしすぎるとコンクリートとしての機能を保てない。よって、セメントに代替できる材料をどの程度使えるかを考えると同時に、実はコンクリートにはCO2を吸収するポテンシャルがあるので、それをうまく利用することで構造物を作ったあともCO2を吸収できないかを考えています。後者に関しては、セメントの製造に用いる材料の種類や配合の具合によって吸収できるCO2の量も変わってくるため、さまざまな条件下で化学的な分析を行いながら研究しています」



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コンクリートのCO2吸収量を測定

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コンクリート打込み中の材料分離を見える化する技術を開発

施工のフェーズでは、伊代田教授は、戸田建設株式会社、ムネカタインダストリアルマシナリー株式会社と共同で、コンクリート打込み中の材料分離程度(粗骨材分布)をリアルタイムで評価する技術を開発した。コンクリートを型枠内に打ち込む際、過密な鉄筋配置や横流しなどにより粗骨材の局所的な集中やモルタルの先流れが生じる場合がある。また、近年は流動性を高めたコンクリートを使用する機会が増えているが、配合が適切でないと過度な水の浮上がりや骨材の沈降が生じる場合がある。これらの材料分離は、硬化コンクリートの強度特性や水密性、耐久性などの低下を引き起こす。しかし、打込み中の材料分離を評価する方法は確立されておらず、これまでは熟練技術者の経験に頼っていた。

「私たちは、コンクリートの配合によってインピーダンス(交流回路における電圧と電流の比)が変化することに着目しました。このインピーダンスの測定結果をもとに、今まで見えなかった型枠内のコンクリートの粗骨材分布を見える化することで、より高品質な施工が可能になります。以前は、施工フェーズは専門の技術者の手に任せていたのですが、今後は人手不足になることも予想されるため、施工者目線でシステム的な補助ができるような方法を、ほかにもいくつか考えています。すべては国民の安心安全のためであり、施工におけるフォローアップは実社会とも密接にリンクしているので、大きなやりがいを感じます」


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条件を変えてコンクリートを製造して実験を行う



また、役目を終えた構造物は解体しなければならないが、解体するとコンクリート塊が大量に出る。伊代田教授は、ゴミとして処理されるコンクリート塊を再利用する「再生骨材コンクリート」の研究も行っている。コンクリートがCO2を吸収できるということは、この塊にもCO2を吸収させて再生骨材として利用することで、これも当然、CO2の削減、ひいては循環型社会の形成につながっていく。

「コンクリートは古代ローマ時代から使われており、現在用いられているセメントの製造法が確立されてから250年ほど経っています。しかし、その250年前に作られたセメントの反応式すらまだ書けていません。つまり、セメントについてはまだ分からないことだらけであり、その製造過程で何が起きているかをひとつずつ解明していかないと、橋やトンネルといったコンクリート構造物に安心して命を預けることはできません。コンクリートは、ひとつの問題を解決すると同時に新たな問題に直面する分野でもありますが、それをまたひとつずつ解明していくことが自分の使命だと思っています」


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profile

伊代田 岳史 教授

工学部
土木工学科/ 先進国際課程


1999年芝浦工業大学大学院理工学研究科建設工学専攻、2003年東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻を修了し、新日鉄高炉セメント(現:日鉄高炉セメント株式会社)にてセメントの研究・開発に従事。現在、芝浦工業大学工学部先進国際課程(土木工学科兼務)教授。研究対象は主にコンクリート材料、建設材料。環境負荷低減を目指した材料開発やその利用方法、耐久性メカニズムなどを検討している。国民に分かりやすくをモットーにしている。

(広報誌「芝浦」2024年冬号 掲載)


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