日本デザイン学会 第70回 春季研究発表大会 in 豊洲キャンパス 開催レポート
- お知らせ
6月23日から25日にかけて、日本デザイン学会(JSSD)第70回 春季研究発表大会が豊洲キャンパス本部棟で開催されました。4年ぶりの対面開催となった今大会では約600名のデザイン研究者・実務者が集い、様々な研究発表が実施されました。
開催校となった本学ではデザイン工学部の教員・学生が中心となり運営を行うと同時に、山田学長の基調講演、かつて芝浦工業大学の教授であった杉山和雄先生の追悼展示など、様々な企画を催しました。
今回は、運営に携わった学生のひとりでもあり、デザイン工学部出身で現在は理工学研究科機械工学専攻に所属している篠崎巧真さんにご協力いただき、レポートを書いてもらいました。
学生レポート「第70回JSSD春季研究発表大会で学んだこと」
■取材・レポート:理工学研究科機械工学専攻 エモーショナルデザイン研究室 修士2年 篠崎巧真(通称:シノタク)
芝浦工業大学で4年ぶりの対面開催!
本記事は蘆澤雄亮教授(デザイン工学部、以下蘆澤先生)からの依頼を受け、わたくし篠崎巧真が書かせていただきます。大会テーマの「学びのデザイン」を軸に、一部抜粋して学生視点で書かせていただきます。
紫陽花を所々で見かけるようになり、夏の暑さの到来を感じられる6月23日~25日に今大会は開催されました。
オフラインでは4年ぶりに開催され、およそ600名という過去に見ない規模の参加者が芝浦工業大学豊洲キャンパスの新校舎本部棟に集いました。
「学びのデザイン」
今大会のパンフレット
記念すべき第70回大会のテーマは「学びのデザイン」。これは蘆澤先生による設定だそうです。開会式ではこのテーマについての説明が行われました。
まずは以下の大会サイトに記載された挨拶文をお読みください。
コロナ禍を契機に私たちは「気軽にオンラインでつながる」という手段を手に入れました。そしてICT技術の発達により「気軽に動画をアップロードして共有する」という手段も手に入れました。さらにはインターネット上にある膨大な情報を人工知能が分かりやすくまとめてくれるようにもなりました。さて、このような状況変化の最中にあって
「学びはどうデザインするのがよい」のでしょうか?
「Youtubeでいいじゃん!」「オンラインでいいじゃん!」「AIに聞けばいいわ!」
そんな声も聞こえてきます。はたして大学で授業をする意味とは一体なんなのでしょう?この一方、私たちがこうして学会発表という名のもとに集うのもひとつの学びです。大会を運営するために皆が協力し合う中にも学びはあります。考えてみれば「学び」は私たちの身の回りの至るところに存在しているのです。
第70回を迎える今回の春季大会では、会期を通して学び合うのと同時に「これからの学びはどうデザインするのがよいか?」について皆さまと議論を深めたいと思います。
大会ではこのテーマに沿ったプログラムや仕掛けを盛り込んだそうです。その仕掛けを見ていきましょう。ちなみに上記画像のイラストは本学学生の上田粋さん(機械工学専攻)が書いたそうです。
基調講演「新たな学びに向けた大学の改革(と悩み)」
山田純学長による基調講演の様子1
山田純学長による基調講演の様子2
開会式後、まず実施されたのが山田純学長による基調講演です。
近年、いつでもどこでも最新の情報を得て、学ぶことが出来るいい時代になってきました。AI技術がさらに発展することによって、学習の個人最適化も可能になるのではないかと言われています。そんな時代が到来するとき、大学の存在意義は何でしょうか。
基調講演では、そんな前提をもとに「新たな学びに向けた大学の改革(と悩み)」として、芝浦工大が抱える課題や今後の取り組みについてお話しいただきました。まずは2024年に工学部を学科制から課程制へ移行することを挙げていました。それに続き、デザイン工学部とシステム理工学部も改組する予定であり、なぜそのような判断に至ったのか、それによってどう変わるのかをお話しいただきました。
デザイン工学部は2025年を目標に改組を準備しています。私はエモーショナルデザイン研究室に所属しているのですが、デザイン工学部の近くで過ごしていて、少しずつ変わろうとしているのを肌で感じられます。授業も少しずつアップデートしています。
質疑応答では「教職連携体制の秘訣」について質問がなされるなど、質問によって改めて本学が教職が一体感を持っていることに気がつきました。たしかにこのレポートを「やろう」と言ってもらえるのも一体感の賜物なのかもしれません。
口頭発表やポスターセッションで意見交換
機械工学専攻M1島内涼雅さん
ポスター発表の様子
研究発表大会のメインは口頭発表やポスターセッションです。今大会では199件の口頭発表、71件のポスターセッション、合計270件の発表が行われました。過去最大とまではいきませんでしたが、歴代2位の発表数だったそうです。デザイン研究の対象はグラフィックスやコミュニティ、情報システム、発想法、生物などに多岐に広がっていました。
質疑応答も活発に行われ、中には議論が終わらない会場も見受けられました。ポスターセッションは本部棟5階のオープンラボで行われ、2日間とも人で溢れ、人が重なりながらポスター発表を聞いていました。ポスター発表はどんなに些細なことでもお話ができるため、これからの研究の手助けになるような意見が多く飛び交ったであろうと思います。
対面での会話には人の表情、細かなニュアンス、会話の間など、情報量が多くあり、そこから得られるものは大きいのではないかと考えます。ちなみに口頭発表では島内さんを含めて、本学から13名の学生が発表しましたが、どの学生も堂々と立派に発表をしていました。
杉山先生を偲ぶ
「杉山先生を偲ぶ」展示の様子1
「杉山先生を偲ぶ」展示の様子2
「杉山先生を偲ぶ」展示の様子3
「杉山先生を偲ぶ」展示の様子4
「杉山先生を偲ぶ」展示の様子5
「杉山先生を偲ぶ」展示の様子6
大会会場である本部棟4階には、昨年ご逝去された杉山和雄先生を偲ぶ展示がされました。杉山先生は数多くの橋のデザインを手掛け、日本デザイン学会会長や千葉大学教授、さらに芝浦工業大学デザイン工学部の教授として教鞭を取ってきたそうです。会期中に展示に通りかかると、写真を見ながら昔話をする方々の様子が見受けられました。
蘆澤先生は杉山先生の教え子の一人でした。そんな蘆澤先生は開会式でこんなことをおっしゃっていました。
開会式での蘆澤先生の説明
「杉山先生に何かを教えてもらった記憶は無いが、杉山先生から多くを学んだ気がする。」共感する方がいたのか、会場では笑声がいくつか聞こえてきました。
蘆澤先生曰く『杉山先生との会話の中での様々な言葉が結局学びになった気がする。今でも「杉山先生、あの時なんて言ってたっけ?」と思うことがよくある。』のだそうです。
確かに何か問題に直面したときに「そういえば、あの人こんなこと言ってな」なんて思い出すことありますよね。それが背中を押してくれたり、問題の解決案だったりします。イマジナリーを勝手に頭に住まわしているんですよね。
ちなみに日本デザイン学会の会報でも他の先生が同じようなことを執筆していました。それもまた印象的でした。
研究発表者にメッセージを送る。それが学びに…
メッセージBOX
とある時の言葉がその言葉を贈られた人を助けてくれることがある。そんな先生の経験から会場にはメッセージBOXが置かれていました。気になった発表やよかったと思う研究発表にメッセージを贈ることが出来ます。
箱の中を覗いてみると、いくつかメッセージが投函されていました。中には複数行におよぶ長文のものもありました。発表後の質疑応答では言えなかったこと、足りなかったこと、そんな強い思いが発表者に届きます。これがのちの問題を解決することのできる学びになるのかもしれません。
オーガナイズドセッション「学びのデザイン」
オーガナイズドセッションの様子1
オーガナイズドセッションの様子2
6月24日、蘆澤先生がオーガナイザーを務め、パネリストとして相庭玄輝氏(株式会社Too)、柿山浩一郎先生(札幌市立大学)、木村雅彦氏(株式会社GKグラフィックス)、福田大年先生(札幌市立大学)、早川克美先生(京都芸術大学)が参加したオーガナイズドセッションが行われました。基調講演と同じく、変化する時代と行動様式を背景に、高等教育(大学)と社会人教育(リスキリング)での「デザインの学び」を対象とし、次なる「(デザインの)学びのデザイン」へのヒントとなるものを探すことを目的に議論がされました。
まずは、パネリストの皆様の取り組みの紹介から、成功話や失敗話、そこでの悩みや考えていることを共有して頂きました。参加者はそれぞれの課題に落とし込んで何かヒント得ることが出来たのではないかと考えます。メモを取っている人をたくさん見かけました。その後、引っ掛かった部分を議題に議論を交わし、終了時間後も立ち話的に議論が行われるなど、白熱した会となりました。
蘆澤先生に相談や雑談をしている私にとって、腑に落ちるお話があったので、それを超訳して、ここに記しておきたいと思います。先生は大学や授業の目的は「学生が社会に出たときに活躍できるようにすること」であると言います。そして、そのためにはただ知識や技術をインプットさせるようなカタチではいけない。なぜかというと、社会からは主体性や協調性、課題設定/解決能力、論理的思考力などを有するT型人材が求められているからです。よって、先生は学生にただ教えるようなことはしません。方向性のみを指し示し、学生自ら答えのない問題に立ち向かわせます。「それって、ただの放置なのではないか?」そう思ってしまう学生もいるかもしれません。それは違います。学生同士が切磋琢磨できる環境づくりをしているのです。この環境づくりがとても重要であり、難しいものであるのです。ここを蔑ろにしているケースはよく見受けられます。
最後に環境づくりに関してはたくさん書けることがあるのですが、その中のひとつ、グッときたものをご紹介します。
人を愛し、信じ、信頼されること。
蘆澤先生
『学びは「信じること」から始まるのかもしれません。』
先生が日本デザイン振興会で勤務していた際、上司だった青木史郎さんは何も教えてくれなかったそうです。それがすごく大変だったと。しかしとあるとき、青木さんはこう言ってくれたそうです。
「失敗した時に責任を取るのが僕の役目だから」
その言葉があったから先生は挑戦できたんだそうです。その言葉だけではなく、態度から青木さんを信頼できたのだと思います。
これを聞いてまさにそうだと思いました。私はうまく人を動かすには信頼されなければならない。信頼されるには結果を残さなければならない。能力によって信頼されようとしていました。もちろんそれも重要な要素ではあると思いますが、相手を信じることを忘れていたように感じます。
加えて、先生は『「信じること」は「愛すること」から始まるのかもしれません』と言いました。ちゃんと信頼されるにはちゃんと信じてあげなければならないと思います。そのためには愛するような心持ちが重要なのかもしれません。さらにそのためにはそのチーム環境のシステム構築に励むのが先かもしれません。「相手に能力がないと信じれない。」そんなことが多いと思います。しかし、信じてあげることにより信頼関係を築けて、指摘や指示がしやすくなる。小さな失敗から学びをしていく。そんな風にできたらいいなと思います。
私は普段から蘆澤先生の言動を見ていたから、この話が身に染みて理解できました。対面でしか手に入れられない学びや関係性は必ずあると考えます。また、大学のような場所でないと提供できないような、ひとを大きく成長させる教育があるように感じます。
これからの学校教育の改編に期待を抱きつつ、今後の私の周りの「学びのデザイン」に心がけていきたいと思います。
<当レポートを執筆した学生>
閉会式後に撮ってもらった写真。右の黒い服が私(篠崎)です。汗だらだら。
【担当学生】
芝浦工業大学大学院
理工学研究科機械工学専攻
エモーショナルデザイン研究室 修士2年
篠崎巧真
今回はカメラ担当として会場の様子を私が記録いたしました。
「全部を見ていた」ということもあり、この記事を担当いたしました。
過去に書いたレポートはこちら。
学生レポート「ミラノサローネ2022 サテリテ展に芝浦工業大学として出展しました!」