高橋浩輝さんが軽金属学会関東支部第9回若手ポスター発表にて優秀ポスター賞を受賞
- 材料工学専攻
研究目的
輸送機器、特に自動車の軽量化のため、アルミニウム(以下Al)にマグネシウム(以下Mg)やケイ素(以下Si)を添加したAl-Mg-Si系合金が注目されています。このような構造材料には、耐食性と強度の両立が求められます。従来、アルミニウム合金においてこれを達成するためには、強度を向上させるための熱処理と、耐食性を向上させるための表面処理の2つの処理が必要であり、高コストとなっています。また、表面処理には薬品を用いるため高環境負荷となっています。これに代わる処理として、我々の研究室では水蒸気を用いて耐食性皮膜を形成する水蒸気プロセスを提案しています。本プロセスは純水のみを用いるため低環境負荷であるほか、水蒸気の熱により合金中の組織が変化し合金の強度も同時に向上可能です。しかし、本プロセスにおいて耐食性の良い厚い皮膜を得るためには処理温度が高温であるほど有効な一方、Al-Mg-Si系合金は一定以上の温度で熱処理を行うと強度が低下してしまいます。そのため、耐食性と強度の両立のためには、より高温の処理においても膜厚を増加させつつ合金の強度を低下しないような条件を見つける必要があります。
研究内容
Al-Mg-Si合金に対し、予備時効と呼ばれる比較的低温での熱処理を行った後に水蒸気プロセスを行い、水蒸気プロセス後の合金の硬さおよび耐食性を評価しました。その結果、T6処理*時以上の硬さが得られかつ、従来の表面処理皮膜と同等の耐食性が得られる処理条件を決定しました。
*T6処理:優れた強度が得られる、工業的に多く使われる熱処理
今後の展望
本研究において、目標としていた従来の処理に匹敵する強度および耐食性を1つのプロセスで得ることができました。これにより、水蒸気プロセスによる既存の製造プロセスの省プロセス化が期待されます。一方、従来の技術と比べて処理時間が長いという課題もあります。その解決のため、今後は純水に他の試薬を添加することで反応性を上げることによる処理時間の短縮や、他の合金系における最適条件の調査を考えています。