芝浦工業大学(東京都港区/学長 村上雅人)土木工学科平林由希子教授と国立環境研究所(茨城県つくば市/理事長 渡辺知保)地球環境研究センター花崎直太主任研究員は、ハワイ大学のモラ教授の取りまとめのもと、太平洋島嶼国気候変動協同体、コーネル大学、米国農務省森林局、レディング大学、ルンド大学、AER社、ケンブリッジ大学、サウサンプトン大学、プリンストン大学、ウィスコンシン大学、マサチューセッツ工科大学と共同で、地球温暖化が多様な気候関連災害を増加させることで、健康、食料、水、経済、インフラ、安全保障といった主要な人間システムに大きく影響することを示しました。気候関連災害は、地球温暖化によって強度が増加するうえ、複数の災害が同時に生じることによって、先進国と途上国の多くの人間に影響を与えることが明らかになりました。

※本研究成果は、Nature Climate Change誌に掲載されました(世界標準時間2018年11月19日16時オンライン版)。

本件のポイント

  • 12,000以上の論文タイトル検索を行った後3,200に絞り込んだ主要な科学論文を調査し、過去数十年に観測された気候関連災害(注1)による影響をまとめた。その結果、健康、食料、水、経済、インフラ、安全保障といった人間システムに関連する主要分野の多くが、複数の災害に同時に影響を受けていたことが判明した(図1)。
  • 気温上昇、熱波、降水変化、洪水、水不足、干ばつ、火災、海面上昇、暴風雨、自然土地被覆、海洋化学変化という11災害について、最新の地球温暖化影響予測(注2)から災害ごとに指標を作成し、それらを足し合わせた累積的な気候関連災害(注3)の評価を行った。地球温暖化が進んだ場合、2100年までには、各気候関連災害が増加するため、複数の災害が同時に発生するケースが増加することが示された(図2)。
  • 同時に発生する気候関連災害に影響される人の数は、最も温暖化の進行が少ない低排出シナリオにおいても十分多く、特に熱帯の沿岸地域で多い。温暖化の進行度がより高い場合はさらに増加する(図3)。
  • 個々の気候関連災害についての、地球温暖化による変化や人間への影響評価はこれまでも存在したが、網羅的なレビューと複数影響評価研究を統合することにより、気候関連災害の同時発生とその複合的な影響を整理し評価したことが本論文の科学面での新規性である。異なる災害の人間への影響を個々に評価するだけでは影響を小さく評価している可能性が大きく、温室効果ガス排出削減目標や適切な適応策を策定するためには、このような複数災害の影響は無視できない。

 

資料

図1:過去数十年に観測された気候関連災害による人間システムへの影響

人間システムの主要6分野(健康、食料、水、経済、インフラ、安全保障)に関連する89要素について、代表的な11の気候関連災害(気温上昇、熱波、降水変化、洪水、水不足、干ばつ、火災、海面上昇、暴風雨、自然土地被覆、海洋化学変化)のうち、いくつの気候関連災害による影響が観測されたのかを示す。例えば、主要6分野の一つである健康の疾病(Disease)の場合、11の気候関連災害のうち、10災害の影響が見られる。

 

図2:累積的な気候関連災害の世界地図

大きな地図は、累積指標(全ての気候関連災害指標の総和)の、1955年と2095年の間の変化を示す。小さな地図は、同じ期間における個々の気候関連災害指標の変化を示す。個々の気候関連災害指標は- 1と1の間をとるように(正規化)されており、負の値は 1950年代の基準値と比較してハザードが減少することを、正の値は増加することを示す。累積指標の最大値は6(一つの地点で最大変化に相当する気候ハザードが6つ同時発生したことに相当)。示されているのはRCP 8.5シナリオの結果である。

 

図3:同時の気候関連災害に暴露される人口

a-cは3つのRCPシナリオの下、様々なレベルの累積的な気候関連災害に暴露された世界人口の割合を示す。a-cはそれぞれ、RCP 2.6、RCP 4.5、RCP 8.5である。 d-fは同じシナリオの下、低・中・高所得の国における人口の過半数が暴露された累積気候関連災害の数を示す。d-fはそれぞれ、RCP 2.6、RCP 4.5、RCP 8.5である。

 

注1 気候変化に関連する災害として気温上昇、熱波、降水変化、洪水、水不足、干ばつ、火災、海面上昇、暴風雨、自然土地被覆、海洋化学変化の11災害を選定し評価した。
注2 大気海洋大循環モデル(GCM)で算定された地球温暖化予測(第5次結合モデル相互比較プロジェクト:CMIP5)をもとに、気候に関連する災害の頻度や強度の変化を予測した結果を指す。将来の温暖化の見通し計算に用いられたシナリオは、代表的濃度経路(RCP:Representative Concentration Pathway)というものである。RCPには4つのシナリオがあり、RCP2.6、RCP4.5、RCP6.0、RCP8.5と呼ばれる。各々の数字は工業化以前と比較した2100年頃の放射強制力(注4)を表す。本論文では、3つの温暖化シナリオ(RCP2.6、RCP4.5、RCP8.5)について全地球上を対象に予測計算されたものを用いた。図2はRCP8.5、すなわち将来シナリオの中では最も温暖化が進行するシナリオの結果である。
注3 まず、気候関連災害ごとに1955年に対する2095年の変化を-1(減少)から1(増加)であらわした指標を作成した。+1(-1)とは、世界各地に起こる変化を大きい順に並び替えた際、95%タイル以上の増加(減少)を表す。これらの指標を11災害について足し合わせたものが累積指標である。この値が大きい場合は、同じ場所で複数の災害が地球温暖化によって発生する可能性が上がることを示しており、複数の災害が同時に発生する可能性が上がるということを示す。
注4 放射強制力(単位:W/m2)とは、ある要因(たとえば大気中のCO2濃度の変化)により気候に変化が生じた場合、その要因による放射エネルギーの収支の変化量として定義される。RCPシナリオの場合は、一般的にこの数字が大きいほど地球の温暖化が進行することがわかっている。

研究助成

本研究は、環境省の支援のもと、(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(S14)により実施されました。

 

 

掲載雑誌

雑誌名 「Nature Climate Change」11月19日世界標準時間16:00(日本時間11月20日1:00)
タイトル Broad threat to humanity from cumulative climate hazards intensified by GHG emission
著者 Camilo Mora, Daniele Spirandelli, Erik C. Franklin, John Lynham, Michael B. Kantar, Wendy Miles, Charlotte Z. Smith, Kelle Freel, Jade Moy, Leo V. Louis, Evan W. Barba, Keith Bettinger, Abby G. Frazier, John F. Colburn IX, Naota Hanasaki, Ed Hawkins, Yukiko Hirabayashi, Wolfgang Knorr, Christopher M. Little, Kerry Emanuel, Justin Sheffield, Jonathan A. Patz and Cynthia L. Hunhter

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