工学部人文社会科目の中村広幸教授は、「福祉と技術」という授業を開講している。この授業は、障害のある人や高齢者のための技術、関連する仕組みを理解し、工学のさまざまな分野と結びつけて考える力をつけることを目的とし、視覚障害(全盲)、上肢障害(両手欠損)のある非常勤講師2名、障害者教育を専門とする非常勤講師1名、専任教員1名の計5名で構成している。さらに障害当事者を特別講師として交え授業期間中に2回の疑似体験(全盲、下肢障害)を組み込んでいるが、単なる体験として終わらないよう、事前課題の提示と事前・事後のディスカッションを実施することで、学生に自分自身の問題としてとらえさせるようにしている。

授業風景
下肢障害の疑似体験の様子

<その時、「想像力」が働くか>

 1980年代、世界的な情報技術の進歩に伴い生活の利便性が大きく向上した一方で、身体的特性などからその利益を享受できない人を生み出していた。例えば一斉に普及したタッチパネル式機器は視覚障害者には操作が難しいものである。さらに1990年代に入りインターネットが普及したことで、その傾向はますます顕著となっていた。このような社会的課題に対してアメリカでは、2001年には連邦政府が調達する電子・情報製品にアクセシビリティ基準を満たすことを義務づけるなど、先進的な取り組みを進めている。

しかし日本では、このギャップが未だ深く、障害者や高齢者にとってのさまざまな不便や不具合が解消されていないという現状がある。この問題を解決するために必要なのは「想像力」だと、中村教授と、この授業を共に構成している岡本明講師は語る。将来、学生たちが商品の開発・製作に携わるとき、障害者がどのように使うかを想像することができたのならば、この授業は成功したと言えると考えている。
 

<リアルな学びが意識を変える>

 学生のステレオタイプ化した障害者像を変えさせることも授業のねらいだ。そのためには、障害当事者を授業に招き、リアルな体験をさせることが大事だと考え、2015年度より2名の当事者を非常勤講師として交えて授業を展開している。全国的にも珍しいのは、ただゲストスピーカーとして話してもらうのではなく、非常勤講師としての採用にこだわったところ。授業のプランニングをし「講師」として働く姿を見せることで、学生のとらえ方や障害者に対する意識も異なってくるからである。実際に、当事者による授業やディスカッションを通して、回を追って学生が能動的になることを中村教授も実感している。他機関にもその効果と実績は波及しており、「福祉と技術」を参考にした授業が他大や別の専門学校でも開講されることになった。

また、上記の取り組みが評価され、2015年度の本学優秀教育教員として本授業を構成する5名の教員が顕彰された。このような授業を行いたいと考えている他大学の先生への更なる後押しにもなれば、と中村教授は言う。
 

2015年度優秀教育教員の受賞「グローバルな課題に対し、障害当事者を交えたPBLやアクティブラーニングを組み込んだユニークな授業の実施」

<共に生きる未来につなぐ>

 今後は地域社会とも連携し、疑似体験の延長として、地域の人々と学生が一緒になって豊洲のまちのバリアフリー化についてフィールドワークに取り組む計画を進めている。また、2016年4月1日より「障害者差別解消法」が施行されたこともあり、教職員向けにも勉強会を開催し、ひいては欧米の大学ではもはや当たり前で、日本の大学でも取り組みが進みつつある“アクセシビリティセンター”を本学でも設置していきたいと中村教授は構想を語る。

いつ自分や家族が怪我をして障害当事者になるか分からない。また、いずれ加齢によって身体機能が落ちる時がくる。他人事ではなく自分事として考えること、そして障害者をはじめさまざまな「違い」を持った人への想像力を働かせながら共に生きていける社会を実現するために、今後も中村教授は教育研究を進めていく。
 

授業担当者
中村広幸教授
河野純大講師(非常勤講師・筑波技術大学准教授)
任龍在講師(非常勤講師・群馬大学准教授)
吉本浩二講師(非常勤講師・富士通株式会社)
岡本明講師(特別招聘講師・NPO法人風の子会理事)

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